前の対談    次の対談    戻る よみうり情報・住吉2001年1月より 

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★ゲスト 上甲 晃さん <志ネットワーク「青年塾」代表>

★ホスト 氏田 耕吉 (ウジタオートサロン代表取締役)

上甲 晃さん 略歴

昭和16年大阪市生まれ。40年京都大学卒。松下電器産業入社。56年松下政経塾に入職。塾頭理事などを経て、平成6年から常務理事、副理事長を経て平成7年 志ネットワーク「青年塾」代表。


松下幸之助さんの「松下政経塾」の世話役として活躍され、退任後は「志ネットワーク」活動を中心に、二十一世紀をになう若い人々を育て上げることに尽力しておられるのが上甲晃さんです。これからの日本や大阪のあり方、人間の生き方についてうかがいました。

http://www.kokorozashi.net

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信念や『志』を捨てて時代の流れに迎合すれば、自己喪失だけが待っている
『思いは天下に、実践は足元から』を日々行うことが大切

仕事を離れてする『良い行い』は単なる『罪滅ぽし』自らの仕事で、
いかに『志』高く生きているかが問題

氏田 上甲さんが、『志ネットワーク』を興された思いはどこにあったのですか?

上甲 今の日本は一流大学を出て一流企業や官庁に働いていて「自分さえ良かったらいい」「目先さえよければいい」という考えをもっている三流四流の人間が多すぎます。これでは世の中、先行き真っ暗です。本当の意味で一流の青年を育てなければなりません。
そこで「志をもった日本人になろう」という運動をしなければならないと考えたのです。
一番時間がかかることが一番本物だと思ったのです。簡単に出来ることは誰でも出来ます。一番時間のかかることこそ本物です。「そんなことは焼け石に水ではないか」と言う人もおられます。

「志」の活動は本来「焼け石に水」です。それだからこそ「志」が必要なのです。その活動の中心として「青年塾」をつくりました。今第五期生を受け入れています。

氏田
 どのような活動をされているのですか。

上甲
 「思いは天下に、実践は足元から」と言うことを日々実行しているかどうかの情報交換です。「思いを天下に馳せる人は足元のことが出来ない」「足元のことを大事にする人は、天下のことが考えられない」傾向にあります。しかし両面を持たねばなりません。「世界はどうなるか」という思いを持ちながら、その第一歩として 「自分の足元をきちんとする」ことが大切なのです。最近は 「ボランティア活動」などが盛んですし、「松下政経塾」でもすべてに先に立って掃除を奨励しましたし、

また「掃除に学ぶ会」の活動もあります。しかし仕事を離れてする「良い行い」は単なる「罪滅ぼし」です。たとえば「掃除に学ぶ会」で一生懸命掃除をしているけれど、本業の仕事では人を踏みつけにして周囲に害を与えている人、「掃除をするときだけ善人」という人が時にはいます。それでは何の意味もありません。「掃除に学ぶ会」で心を学んだら、その心をもって日々の生活や仕事が出来ないと、学びは生きているとは言えません。学びを一番困難な現実の中で生かしていく、それが本物です。「志ネットワーク」「青年塾」の活動は「自らの足場をおいている現実を通じて、いかにより 志 高く生きているか」「日々の活動の中で「 志 」を実践出来ているのかどうか」を互いに確認し合い励まし合うのです。

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『時代に合わせよう』とするのではなく

『自分でどんな流れを作るか』という主体性が大切

氏田 これからの企業、商店、私達の活動はどうあるべきだと考えておられますか。

上甲
 私達は何かやりだすとすぐに「大きくしよう」「増やそう」と考えがちです。そこに間違いがあります。ある業界の青年塾で「私の夢」というテーマでみなさんに聞くとほとんどの人が「店舗を倍にしたい」「売上を倍にしたい」と量的拡大を話されました。未だにそういうことを目標とするのは時代遅れです。
会社を大きくすること、従業員数を増やすこと、売上を増やすことを目標にするのは高度経済成長の弊害です。これからは「たったひとつの店舗しかないけれども顧客満足度が高い」と言うような、質的な掘り下げに目標のおき方が変わってくる時代です。

「量的拡大から質的掘り下げへ」の変化の時代です。「非常に行き届いているな」と感じられるような心遣いのある企業店・活動の時代です。

「松下政緯塾」で、ある塾生が松下幸之助さんに「あなたは、いつから『世界の松下』にしようと思われたのですか」と聞いたのです。松下さんは「一度も自分でそんなことは考えた事は無い。日々の仕事を一生懸命やろうとそればかり考えていた。ふっと振り返ってみたら、自分でも想像がつかないくらい大きい会社になっていた」と言われました。会社や組織は、結果として大きくなっていくもので、大きくすることを目的にすると無理がかかってゆがんできます。
「結果」を「目的」としてはならないのです。

氏田 二十一世紀をどう考えればいいのでしょうか。

上甲 よく「二十一世紀は激変の時代だ」とか言いますが、いつの時代も「かつてない激動の時代」「大激動期が来た」と言い続けられてきました。「激動」「激変」という言葉は常にその時代その時代の単なる枕詞です。人間の本質や世の中がそんなに変わるものではありません。変わっているのは目先だけです。誰かが仕掛けた「激変」という言葉にみんなが踊らされ振り回されています。こういう時こそ、変化に目を奪われずに、「真理は不変である」という心構えが大切です。そういう心構えがないと時代に流されてしまいます。

 

 

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氏田 今「IT時代」と言われていますがこれもやはり惑わされているのでしょうか。

上甲
 バブルの時代には誰もバブルだとは気がつきませんでした。それが当たり前だと思ってみんな踊らされていて、終わってみると「どうしてあんなことで踊ったのだろう」とどうしようもない反省をするのです。IT革命もいずれそういう運命をたどるでしょう。「IT革命だ」「何か新しいことをやらなければいけない」と時代に流されてしまうと、今まで持ってきた自分の持ち味や本当にいいものを全部捨ててしまって、気が付いてみると何もかも無くなってしまいます。「時代に合わせよう」とするのでなく「自分でどんな流れを作るか」という主体性が非常に大事なのです。

商売であれ何であれ、本当にお客様に喜ばれ、社会に役に立つ仕事をすれば、絶対に生き残れるという「信念」を持つことが大事です。原点はどんなに形態が変わっても何も変わりません。コンピュータを入れて便利にすることは「方法」であって「目的」ではありません。「方法」から入ると本質を見失ってしまいます。インターネットのバーチャル商店街はその典型です。商売の形態としては何も変わっていません。コンピュータが出来て何か新しいものが生まれるような幻想を多くの人が持っていますが、そんなところから本物は生まれて来ません。「自分で判断する能力」「信念」が大事です。私が一番嫌いな言葉は、「時代の流れですから」と言う言葉です。

時代の流れを言う前に「あなたの信念は何ですか」という問題が大切なのです。信念や「 志 」を捨てて時代の流れに迎合していけば自己喪失します。

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大阪の未来は姑息な金儲けではだめ、精神を高く、

『志』を明確にすれば経済も高くなってくる

氏田 世界中を回っておられて日本はどのようになっていくと思われますが。

上甲
 日本だけでなく世界中が物質的繁栄を得るために精神的なものを全部捨ててきました。今や資本主義社会ではなく「物欲主義社会」です。
経済発展のためには精神的なものを捨てていく社会です。日本が戦後発展してきたのは精神的なものをすべて捨ててきたからです。韓国でも儒教は滅びつつあります。アメリカでもキリスト教の信仰心は衰えています、完全に「物欲至上主義」の社会です。人類は物質的に贅沢になりたいと大変な競争をしています。

それによって環境が破壊し資源が枯渇し、一方ではどんなにお金儲けをしても精神的に満たされない「精神的飢餓」状態が世界中をおおいつくしています。私の合言葉は、何よりも「精神の立て直し」です。

氏田
 大阪の今後の発展についてどうお考えですか。

上甲
 「志」という言葉が通用しにくいのが大阪です。「『 志 』でなんぼのもんや」「銭にどのように繋がるのか」ということだけを判断基準にしています。そこが変わらないと大阪は変わりません。私の「志」の講演の依頼が少ないのが地元の大阪です。「明日からの商売に繁がる話を聞きたい」という人が多いのです。 

しかし大阪には、堺の「自由都市」、江戸時代の「天下の台所」、明治・大正・戦前の「社会的な貢献献をする経済人」など非常に高い、「 志 」の伝統があります。今大阪の経済活動が落ちているのは精神が非常に落ちてきているからです。姑息な金儲けでは大阪の未来はありません。精神を立て直して行く運動が大事です。

「精神を高くし、『志』」を明確にすれば経済も高くなってくる」ということに気が付かなければならないのです。

氏田
 ありがとうございました。

(連絡先) 志ネットワーク 上甲 晃 http://www.kokorozashi.net

〒590-0116

 大阪府堺市若松台3-3-17 

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