2011/05/06

新型グラチェロ、華麗な変身とバーゲンプライス


クライスラー ジープ グランドチェロキー 試乗レポート

強まるオンロード志向
ジープはオフロードカーの元祖であると同時に、オフロード魂をもっとも頑なに守り抜いてきたブランドだ。フラッグシップであり、またジープのなかではもっとも都会派SUV色が強いグランドチェロキーでさえ、初代と2代目のサスペンションは4輪リジッドで、ステアリング形式も悪路でのキックバックを考慮しリサーキュレーティングボール式を採用していた。




オンロード性能を初めて謳った先代(3代目)になってようやくフロントサスペンションがダブルウィッシュボーン化され、ステアリング形式も一般的なラック&ピニオンになったが、それでもランドローバーを除く他のSUVと比べるとオフロード性能へのコダワリは強かった。事実、①4WDシステムに副変速機(4Lowモード)を備えていること。②全米屈指のオフロードコース“ルビコン・トレイル”を走破可能であること。③軍事用車両として開発された厳しい耐久テスト“AK3”をクリアすること。という「ジープ三箇条」をしっかりとクリアしていたのである。

 今回登場した4代目グランドチェロキーは、さらにオンロード性能を強く意識してきた。サスペンションはついにリアも独立懸架化され、さらにはオプションでエアサスも設定。エンジンもジープ初となるDOHCになった。言い換えれば、積極的にグローバルスタンダード化を推し進めたのが新型グランドチェロキーというわけだ。

 そんな新型グランドチェロキーを、往年のジープファンはどう受け止めるのだろう? もしかしたら「ジープらしさがなくなった」と感じるのかもしれない。そんな疑問をクライスラージャパンの七五三木(しめぎ)社長にぶつけてみた。

国産ライバルよりも「お買い得」
「新型グランドチェロキーによって日本マーケットのど真ん中に切り込んでいく。これがわれわれの戦略です。たしかに、昔ながらのジープらしさは感じにくくなったかもしれませんが、決してジープらしさを失ったわけではありませんし、ジープのラインナップにはオフロード性能を徹底的に追求したラングラーもあります。現代のSUVに求められる様々な要素を備えながら、大変お買い得な価格を実現した新型グランドチェロキーは、多くの日本のお客様に受け入れていただけるモデルだと考えています。」

 

七五三木社長のコメントは明快かつ自信に満ちていた。なかでも注目すべきは「現代のSUVに求められる様々な要素を備えながら、大変お買い得な価格を実現」という部分だ。早速検証していくことにしよう。

 グランドチェロキーには、標準グレードの「ラレード」、上級グレードの「リミテッド」がある。価格はラレードが398万円、リミテッドが498万円で、リミテッドのみにオプション設定するエアサスペンション仕様が523万円となる。ラレードでもオートエアコンやクルーズコントロール、パワーシート、アルミホイール、各種安全デバイスなどは標準装備であり、リミテッドとの主だった違いはシートがファブリックになるのと、ナビゲーションが付かない程度だ。

 ここでライバルの価格を調べてみると、レクサスRXは415万円~で、日産ムラーノは297.2万円~。ただしRXもムラーノも廉価グレードのエンジンは4気筒であり、6気筒モデルに限定すればRXは460万円~、ムラーノは447万円となり、グランドチェロキーのほうが安くなる。6気筒エンジンを搭載した価格で対抗できるのは国産でもハリアー程度である。もちろん、メルセデスMクラスやBMW・X5(ともに798万円~)、VWトゥアレグ(623万円~)と比べれば、グランドチェロキーは圧倒的に安い。

 というわけで、価格に関する七五三木社長の主張が決して誇張ではないことがわかった。では「現代のSUVに求められる様々な要素を備えながら」という部分に関してはどうだったのか?

華麗なる変身を遂げた
実車を眺めて最初に感じたのは、ボディの仕上げが断然上質になったことだ。先代もジープとしてはかなりフラッシュサーフェイス化を進めていたが、新型はさらに凹凸がなくなり、またパネルとパネルの隙間も小さくなった。ボンネットフードとフロントフェンダーのパーティングラインを見れば、工作&組み付け精度が日欧のプレミアムSUVと同水準に達していることがわかる。

さらに注意深く眺めていくと、眼光鋭いヘッドランプ、ボディサイドの滑らかな曲面、クロームで囲ったモダンなグリーンハウス形状など、上質さとモダンさをアピールする要素がそこかしこに散りばめられていることに気付いた。伝統の7スリットグリルや台形のフェンダーによってジープのアイデンティティを演出しつつ、モダンでプレミアムなSUVへと華麗なる変身を遂げたというわけだ。

 インテリアも大幅に質感を引き上げている。先代のインテリアはプレミアムSUVとしてはあっさりしすぎていた。とくに樹脂パーツの質感はお世辞にも高いとはいえなかった。それに対し、新型はマテリアルにも表面処理にも組み付け精度にも大筋で高い点を付けられる。

 正直なところ、欧州製プレミアムSUVほどのゴージャスさはないし、センターコンソール周りのメタル調パネルも軽々しくて気に入らなかった。質感が上がった分、アメリカ車らしい大らかさも後退した。けれど、グランドチェロキーのシートに収まって前方を見渡したとき「安っぽいな」と感じる人はほとんどいないと思う。価格を考慮に入れればなおさらだ。総合的に見て、質感の低いインテリアという先代の弱点は見事に解決されたと報告できる。

優等生になった走り味
ジープとしては初となる4輪独立懸架とDOHCエンジンを採用した新型チェロキーは、ドライブフィール面でも大きな進化をみせてくれた。とくに印象的だったのがオンロード性能の高さだ。試乗したのはエアサス仕様だったのだが、荒れた路面でもバネ下がバタ付くことはなく、ザラついた路面でのロードノイズもきっちりと抑え込んでいた。出っ張ったマンホールの蓋や都市高速の金属ジョイント部など、尖った入力に対してはタイヤの固さを感じることもあったが、快適性は明らかにワンランク向上した。

ハンドリングにも同じことがいえる。高速道路ではステアリングのセンターがビシッと出ているし、あたかもクルマ自身が真っ直ぐ走ろうという意志をもっているかのように、路面を確実に掴みながら頼もしく直進する。真っ直ぐ走っているようで微妙にフワ付いていた(それも味だったが)先代と比べると、高速直進時の安心感はかなり高まった。ステアリングを切り込んでいったときのロールの出方やライントレース性の高さにも、ボディ剛性の向上や4輪独立懸架化の恩恵を感じる。

 今回、オフロード走行は試せなかったが、新開発のセレクテレインシステムは、走行条件に合わせスロットル特性やATシフトマップ、トランスファー、トラクションコントロール、ESPなどを最適制御。「サンドおよびマッド」「スポーツ」「スノー」「ロック」に「オート」を加えた5つのモードをダイヤルで選ぶだけで、場面に応じた最適な走行特性を実現するという。もちろん、冒頭で書いた「ジープ三箇条」は新型もしっかりクリアしている。

 3.6リッターV6にダウンサイジングすることで燃費性能を大幅に高めたエンジンは、VVTなどのハイテクの助けもあって先代の4.7リッターV8に迫る286psという最高出力を発生する。とはいえトルクは排気量なりであり、2トンを悠に超えるボディを軽々と加速させるというわけにはいかない。回していけばそれなりに速いが、低い回転域からアクセルをスッと踏み込んだときの力感が低下したのは否めない。もちろん、燃費向上という時代の要請があるのは理解できる。ただ、本国仕様に存在する5.7リッターHEMIエンジン搭載モデルという選択肢を、日本ユーザーにもぜひ提示して欲しいところだ。

 全体的に質感が上がり、オンロード性能も経済性も高まった反面、若干無国籍風になったグランドチェロキーは、「ジープ」とか「アメリカ車」という色眼鏡を外して眺めれば、コストパフォーマンス抜群の実に魅力的なクルマだ。しかしクルマはコストパフォーマンスのみで選ぶものではない。背筋がゾクゾクするほど魅力的なHEMIエンジンを搭載したモデルが加われば「怒濤の如きトルクが生みだすアメリカ車らしい走行フィール」が一気に備わるわけで、それをみすみす逃してしまうのはなんとももったいない。そんな想いを七五三木社長に伝えたところ、次のような答えが返ってきた。「現段階では予定していませんが、前向きに検討したいと思います。」 社長、ぜひともお願いしますよ!

(carview)

http://www.jeep-japan.com/campaign/grandcherokee/


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