2011/08/23

プジョー 508 & 508SW 試乗レポート


原点回帰の思い切ったプライスタグ

 ついに「プジョー508」が日本の街を走りだした。プジョーの新しいデザイン言語を最初に採用したスタイリングは美しく、同時に質感も飛躍的に向上。その他、後席や荷室のスペース、装備内容、ドライブフィールなど、すべての面でプジョーの新フラッグシップに相応しい仕上がりをもっていたことは、すでに海外試乗で紹介済み。ちなみに今回は海外試乗との重複を避けて書いているので、まずは海外試乗レポートをご一読いただければ幸いだ。



































ただし、海外試乗会に用意されていたのはMT仕様のみで、6速AT仕様には試乗できていなかった。日本で販売される1.6リッター直4ターボ+6速ATの組み合わせは果たしてどんな走りを生みだしているのか? 気になる日本仕様の仕上がりを報告する前に、まずはサプライズとも言っていい魅力的な価格設定について触れておきたい。

 508にはセダンとSWの2つのボディタイプがあり、標準グレードが「アリュール」、上級グレードが「グリフ」と呼ばれるが、もっとも安いアリュールのセダンは374万円というプライスタグを下げている。

 僕としてはナビ付きで400万円を切ってくれば、かなりの価格インパクトがあると考えていたが、そこからさらに25万円も安くしてきたのには正直驚かされた。ボディサイズや装備内容、見栄えといったプラスαを考えれば、ナビなしで324万円を付けてきたVWのパサートとも十分対抗できる。もちろん、予算に余裕があれば上級グレードのグリフに注目するのも悪くない。本革シートやカラーヘッドアップディスプレイ、ディレクショナルキセノンヘッドライト、17インチタイヤ、インテリジェントハイビームといった充実した装備を持ちつつ、40万円高の414万円はなかなかお買い得である。また、巨大なガラスルーフを備えるSWの価格も、アリュールがセダンから20万円高、グリフが23万円高と、予想以上に控えめな設定だった。

 プジョーは一時、全体的に価格を高くしすぎて日本での販売台数を落としてしまっていたが、200万円を切る「207」をはじめ、最近は価格設定を大胆に見直すことで、“お洒落で運転が楽しく、コストパフォーマンスに優れたブランド”というかつての魅力を取り戻しつつあった。その結果、昨年は対前年比38%アップという過去最高の伸び率を記録。今年に入ってからも対前年比10%アップという好調をキープしているのだが、プジョーらしさを強烈に感じさせる508の登場によって、勢いはさらに増しそうだ。

フラッグシップの心臓もダウンサイジング


 508のエンジンは1.6リッター直4・直噴ターボのみ。先代407は2.2リッター直4と3リッターV6の2本立てだったが、プジョーはお得意のディーゼルを含め明確なダウンサイジング路線を歩んでいて、6気筒はフェードアウトさせる方向にあり、本国にもV6の設定はない。フルラインメーカーとしては勇気ある選択だが「われわれはプレミアムメーカーではないのだから」と、当のメーカーは意外にアッケラカンとしているのが面白い。一方で、プジョーは世界で初めてディーゼルハイブリッドを市場投入するメーカーになる可能性が高いし、ガソリンハイブリッドもそう遠くない将来には市販する予定だ。

508が積む1.6リッター直噴ターボはBMWと共同開発したもので、207のスポーツモデルであるGTや、3008、308の上級モデル、はたまたRCZにも搭載される“超”が付くほどの汎用エンジンだ。地元ヨーロッパではディーゼルが主流ゆえ、ガソリンエンジンに開発リソースを割けない事情もあるのだろう。しかし、実際に乗ってみればそれが決して苦肉の策ではなく、クレバーな「経営資源の集中」と思えてくるほどにこのエンジンの出来映えはいい。

 156psという最高出力こそ、自然吸気エンジンでいけば2リッタークラスだが、最大トルクは2.5リッター並みの240Nm。しかもそれをわずか1400rpmから発生するため、常用域での力強さ、扱いやすさは想像以上。静粛性にも高い得点が付く。端的に言って、これだけ力強く、スムースに、そして静かに走るのならV6はなくても良かったなと思える仕上がりなのである。

 組み合わせるのはアイシンAW社製の第2世代トルコン式6速ATで、407が搭載していた第1世代と比べると、フリクションの低下による効率アップ、変速スピード向上、変速ショック減少、ロックアップ領域の拡大、ギアレシオのワイド化といった進化を果たしている。具体的なドライブフィールについては次のページで詳しく報告していくことにしよう。

驚異の静粛性とダイレクト感のある6AT

 プッシュ式スターターを押してエンジンを始動。Dレンジで停車中に伝わってくるアイドル振動はちょっと大きめだ。フロアやシートを揺らすほどではないが、5~6Hz程度のブルブルした振動がステアリングホイールを通して掌に伝わってくる。ひと昔前なら「FFの特性」として片付けてしまっても問題ないレベルだったが、VWゴルフやパサートがFFでありながら「ほぼ無振動」を実現していることを考えると、エンジンマウントのチューニングや回転数の制御など、アイドル振動の抑え込みにはもう一歩の煮詰めが欲しいところではある。

もっとも、VWのDSGは停車時にはクラッチを切ってエンジンをフリーで回しているため、アイドル振動の面では有利なのも事実。そんなハンディキャップを覆すためには、停車時にATのクラッチを切るようなアイデアを検討してみるのもアリかもしれない。

 DSGと比較してトルコン式6速ATの方が勝っているのは、発進時や車庫入れ時といった、クルマが動くか動かないか、あるいは極低速時の扱いやすさだ。初期のものと比べればDSGもかなりスムースになったが、多板クラッチの摩擦をコントロールするという構造上、アクセル操作に気を遣ってやらないとギクシャクした動きが出るケースもある。その点、流体クラッチであるトルコンはそのあたりの特性がいい意味でルーズであり、段差を乗り越えたらすぐに壁…といったシビアな車庫入れも無難にこなしてくれる。

 走り出してしまえばアイドル振動は消え、このエンジンが本来的にもつスムースさが前面に出てくる。4気筒としてはトップレベルのスムースさと静粛性が、入念な騒音対策を施したボディと組み合わさった結果、508の静粛性はちょっと驚くほどの水準に達している。プジョーは自分たちをプレミアムブランドではないと言うが、508の静粛性は間違いなくプレミアムカーである。

 特筆したいのは第2世代ATのダイレクト感だ。トルコンを使っているのは発進時や低速時といった一部の領域のみで、残りの大部分はロックアップクラッチをつないだ「トルコンスリップゼロ」の状態で走る。508のロックアップ領域の広さは他に例がないほどで、走行時のダイレクト感はDSGやMTに近い。加えて、ロックアップクラッチを解除しているときも、ATの特性そのものが非常にタイトなため、ズルズルしたスリップ感を伴うルーズさは皆無。トルク増幅効果を伴うトルコンスリップが少ない分、エンジンには負担がかかるが、そこは前述した1400rpmで2.5リッター並みのトルクを生む直噴ターボがキッチリとカバーしてくれる。

 スムースさを最重視した日本車のATに慣れた人が乗ると、最初はMT車のようなダイレクト感に戸惑うかもしれないが、慣れてしまえばとても気持ちのいい走りを味わわせてくれることに気付くこと請け合いだ。

ファンならずとも一見の価値あり

 ATの他、日本仕様で目に付いたのがセンターコンソールパネル周りのレイアウト変更だ。本国仕様はナビ画面が上で空調スイッチが下になるが、日本仕様は上下逆になっている。視認性の面から言えば、ナビ画面はできるだけ高い位置にレイアウトした方がいいのだが、本国仕様のナビが日本の地図に対応していないこと、かといって日本で調達できる2DINサイズのナビでは大きすぎて収まらないということで、やむを得ず上下逆さにしたそうだ。

これまでオーディオ関係のフィッティングにはあまり気を遣ってこなかったプジョージャポンだが、508ではピアノブラックの専用フィッティングパネルを新たに起こして2DINサイズのナビを違和感なく埋め込むなど、仕上がりは悪くない。ただ、本国仕様の美しく、かつ機能的なレイアウトを知っている僕としてはちょっと残念ではある。パナソニック製純正ナビの性能は文句なしだが、最近はPNDやスマートフォンでも実用に耐える道案内をしてくれることを考えると、あえてナビはオプションにとどめ、本国仕様のデザインを残しつつ、ナビの価格分を引いて販売するという選択肢もあったように思う。

 フットワークはすでに海外試乗レポートで報告済みだが、欧州仕様と日本仕様ではフィーリングに若干の違いがあった。基本的には滑らかでフラットで軽快でしっかりしている足回りなのだが、尖ったショックに出会った際、日本仕様の方がゴツゴツ感をストレートに伝えてくる傾向を感じた。これはアリュールの16インチ、グリフの17インチ、あるいはセダン、SWともに言えることで、良路ではとても気持ちのいい走り味を示してくれるのだが、荒れた路面ではプジョーらしい猫足を感じにくい場面があった。

 実は、日本仕様は転がり抵抗の小さい低燃費タイヤを選択しているとのこと。おそらくこれがゴツゴツ感の原因だろう。標準装着タイヤ選択を見直せば、508のフィーリングはもっとずっと良くなるはずだ。もし僕が508を買うなら、少々もったいないが最初のタイヤ交換時期を早めにして、コンフォート性能を重視したタイヤに履き替えるだろう。

 端正で美しいデザイン、優れた質感、大柄な男性4人を快適に収める広い室内、ゴルフバッグの横積みも可能な広いラゲッジ、気持ちのいい走り味、良心的な価格設定など、508は非常に優れたトータルバランスを備えたミドルクラスのセダン&ステーションワゴンだ。フランス車ファンだけでなく、日本車やドイツ車に乗っている人にも「一見の価値あり」とお伝えしておきたい。


(carview)

http://peugeot508.jp/




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