前の対談    次の対談    戻る    よみうり情報・住吉2000年6月より  

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★ゲスト 山井 和則さん<やまのい高齢社会研究所 所長>

★ホスト 氏田 耕吉 (ウジタオートサロン代表取締役)

山井 和則さん略歴
昭和37年生まれ。

洛南高校、京都大学工学部大学院を経て松下政経塾研究員。奈良女子大学講師を経て、やまのい高齢社会研究所 所長。現在、民主党・衆議院議員。
http://www.yamanoi.net/

著書に

「体験ルポ 世界の高齢者福祉」(岩波新書)

「図解 介護保険のすべて」(東洋経済新報社)

「グループホームの基礎知識」(リヨン社)他多数


母校の「社会の雑巾になりなさい。社会をきれいにする生き方をしなさい」という校訓をスタートに、大学時代には、福祉施設で6年間のボランティア活動、祖母を20年間の寝たきりの末に亡くした経験などから、「寝たきり老人」や、「痴呆性老人」の問題の解決をライフワークとして取り組んでおられるのが山井和則さんです。氏田さんとは彼が松下政経塾時代から10年来の知人。介護保険を中心にお話をうかがいました。

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21世紀の親孝行は、

「体の介護はプロにやってもらって、心のお世話は家族がする

5人から9人規模の、グループホーム型、

サービスの艮さを競い合う老人ホームを住み慣れた地域に

氏田 日本でもようやく介護保険が導入されます。これについてはどうお考えですか。

山井
 介護保険は、問題も多いのですが、大きな前進だと思います。その大きな理由は、福祉サービスが選べるようになったことです。今までは悪いサービスの老人ホームであっても行政がどんどん老人を送り込んでくれますから、どんな所でも通用したのです。お年寄りも他に行き場所がないので、我慢してくれたのです。介護保険を通じて老人ホームの数が増えて買い手市場になります。競争原理によって、いいサービスが生き残り、悪いサービスは売れ残り、不親切な老人ホームは潰れるのではないでしょうか。

すぐにと言うのは無理でしょうが、介護保険を通して、悪いサービスの老人ホームは淘汰されて無くなっていくようにしなければならないと思います。

氏田
 どういう老人ホームが理想なのですか。

山井
 町外れに大きな老人ホームをつくる構想は辞めないとだめです。五人から九人規模の、サービスの良さを競い合う、グループホーム型の老人ホームを、住み慣れた地域につくることが必要です。高齢の方は、引っ超しすると三〇%能力が低下します。ただでさえ、弱っているのに、さらに弱るのです。しかも大きな施設にはいると家庭的な雰囲気がないのでさらに能力がダウンします。

帝塚山1丁目に住んでいる人は、帝塚山1丁目の空き家を改造してグループホームにして、帝塚山1丁目に住み続けるという社会が理想だと思います。私のライフワークは、小学校区に1つ、グループホームをつくって地域で老いを支えていくことです。しかも個室の老人ホームが必要です。四人部屋ではいびきをかく人がいればほかの人は寝られませんし、ポータブルトイレではにおいが部屋に充満します。そんな部屋では満足の出来る生活が出来るはずがありません。またお酒をはじめ自分の好きなものを楽しんだり飲んだり食べたり、ペットを持ち込んだりすることの出来る体勢が整っていることも大切です。サービスの良さを競い合うような老人ホームにならなければならないのです。

 

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氏田 私はよく友達と「年とったら一緒の老人ホームに入ろう」と言っていますが、そういう老人ホームがいいですね。

山井
 日本でも非常に先進的なグループホームではそういうことが行われていますが、ほとんどの老人ホームではそういうことはまったく出来ていません。先日も聞いた例では、老人ホームに入っている人が病院に通うことになって、寮母さんがついていったのですが、そのおばあさんが病院の帰りに

「寮母さんお願いがあります。私は死ぬまでにあそこのラーメン屋のラーメンが食べたいのです。連れて行ってください。」と言ったのです。ところが、寮母さんは「だめだめ、入所しているみんなを公平にしなければならないから」と言うのです。そこでそのおばあさんは「ラーメンが駄目ならせめてその横の和菓子屋さんで売っているヨモギ餅を買って欲しい」と言ったのですがそれも駄目なのです。

これが「豊か」と言われる日本の老いの姿です。「週に1度、1人づつ外出出来ますよ。
その時に行きたいお店に連れていきますよ」とどうしてそれぐらいの老人福祉が出来ないのかなと思います。日本の社会の豊かさと老人福祉の貧しさのギャップが大きすぎるのです。

 

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悪いサービスは利用しない、いい老人ホ−ムを選ぶ、賢い消費者に
「保険料を払って気楽に早めから福祉サービスを利用しよう」という意識改革を

氏田 私達市民は、どういうことをしていったらいいのでしょうか。

山井
 意識変革が必要です。一つは、しっかり勉強していい情報を持ち、さらに声をあげていくことが大事です。今までは老人ホームを選ぶことが出来ませんでしたし、どこのヘルパーさんにきてもらうかも選べませんでしたから、一般の方も勉強する必要は無かったのです。しかしこれからは「住吉で一番いい老人ホ−ムはどこか」という情報を入手して、悪いサービスは利用しない、いい老人ホームを選ぶ、賢い消費者にならないといけないのです。また介護保険は地域によって金額が違いますから格差がでてきます。声をだしている地域は進んでいきますし、声を出さない地域は遅れていきます。

 もう一つは 「医師にかかるのはいいが、福祉のお世話にはなりたくない」「人様のお世話になるのは申し訳ない」と言う意識を変えることです。
「世間体が悪い」と、福祉サービスを利用しないで家族で抱え込んで、重度の寝たきりになったり、介護者と共倒れになるケースが非常に多いのです。この介護保険をきっかけに「保険料を払う替わりに気楽に早めから福祉サービスを利用しょう」という意識改革をしていくことが大切です。

氏田
 家族が介護するのは本当に大変だと言う話をよく聞きますね。

山井
 家族がやさしく介護出来るのは、「一日八時間で週休一日か二日」という条件のみでようやく可能です。

ところが実際の介護は「今日は日曜日だからおむつ交換休み」とか、夜中でもお年寄りは起き出しますから「一日八時間」などと言ってはおれません。年老いた奥さんやお嫁さんに任せるのは最初から無理なのです。
 こういうことを一番理解して頂きたいのは、女性より男性です。女性は介護は家族だけではむつかしいというのはいろいろな人から話を聞いたり、毎日家事をやっていく中で分かっているのです。ところが男性は「おれは一生懸命外で働いている、介護ぐらいお前、やってくれ」と軽く考えておられる方が多いのです。介護者の女性が共倒れで病気になつてしまうのは、一見親孝行な長男のケ−スが多いのです。

 

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「おれが責任を持って看る」と胸を張るのですが自分は介護を手伝わない。しかも「福祉サービスを利用しようか」と奥さんが相談すると「そんな格好悪いことをするな、おれの長男としての立場が無い」と世間体だけは気にするのです。男は仕事の疲れを、飲みに行ったりして発散出来ますが、女性の介護は、二十四時間三百六十五日、三時間に一回おむつ交換しなければいけないのですからちょっと買い物に行っても早く帰らねばいけないと心が休まらないのです。しかもそれが、五年続くか、十年続くか分からないので非常にきついのです。「顔も見たくない、早く死んでくれないかな」となります。

「そんな冷たい」と思う方がおられるかも知れませんが、やさしかったお嫁さんでも五年ぐらい介護を続けると、疲れて顔付きが険しくなってきます。

 二十世紀の日本は、他人の手を借りずに、親子関係の中で看て行くのが親孝行で、それをする役目が嫁だとされてきました。しかし二十一世紀の親孝行は「体の介護はプロにやってもらって、心のお世話は家族がする」ことにならなければなりません。

氏田 日本の高齢者介護は、根本的に変わらなければならないところに来ているのですね。

山井 今までの日本の福祉は車椅子になつたら「人生終わり」みたいなところがありましたが、欧米では、車椅子になっても「散歩に行こう」「おしゃれをしよう」と人生を楽しんでいます。日本でも車椅子になってからもう一回人生を楽しむ社会をつくらなければならないのです。

氏田 ありがとうございました。

山井 和則さんは対談後の現在、民主党・衆議院議員として活躍しておられます。

http://www.wao.or.jp/yamanoi/

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