石井 正純さん
ゲスト石井 正純さん <社団法人「全国学習塾協会」会長・「英数塾帝塚山泉の会」主宰>
ホスト 氏田 耕吉 (ウジタオートサロン代表取締役)
これからの「学習塾」は街の教育機関として、学校や地域社会と共に子どもの未来を考え行動していく存在
「いじめ」「不登絞」などの問題はいつまでも解決せず、「十七歳問題」など新たな子どもの問題も発生しています。氏田さんも中学校時代に指導を受けた「英数塾 帝塚山泉の会」で、長年子どもの情操教育に力を入れてこられ、現在、「社団法人 全国学習塾協会」会長でもある石井正純さんにお話をうかがいました。http://www.jja.or.jp/
情報過多の現代の子どもは、十人十色、二十人二十色、一人の子どもでも「日変わリメニュー」のように、やる気と無気力がコロコロ変わる
氏田 これからの「学習塾」のあり方についてどのように考えておられますか。
石井 夜だけ数学や英語などを、勉強や受験のために数えるだけの存在ではこれからの学習塾の未来はありません。生徒数が減っているにもかかわらず「いじめ」「不登校」「十七歳問題」などいろいろな問題が起こり、しかも根本的な解決の方向は示されていません。現在の学校や文部省の考え方は「学校の中で起こったことは学校の外に出さない」と言うことを基本にしていますから子どもの問題が一般社会から非常に見えなくなっています。しかし問題を隠していたのではいつまで経っても解決はありません。これからの「学習塾」は、街の教育機関として、子どもの問題をオープンにして、学校や地域社会と共に子どもの未来を考え、行動していく存在になることが必要です。それがこれからの学習塾の使命であり立場です。
氏田 日本のあらゆる分野で構造変革が行われているように塾も変わっていかざるを得ないのですね。
石井 そうです。昔の子供たちは良くも悪くも同じようなタイプで、一学年一つの学習指導要項で指導できたのですが、情報過多の現代の子どもは、十人十色、二十人二十色です。また一人の子どもをとっても「日変わりメニュー」のように、やる気と無気力がコロコロ変わります。それに学校が十分対応し切れていないために、少子化で学校の先生の目が行き届くように見えていても、なお苦しんでいる子どもが数多くいます。そういう現代の子ども達に対応するのが「学習塾」でなければなりません。
氏田 私が先生の「泉の会」でお世話になったのは私の中学生時代の三十五年前です。学習の合間にスケートに連れて行っていただいたり、合宿に行ったり、先生に叱られて家に早く帰れず万代池で時間をつぶしたり、そんな事の積み重ねが私自身の人間性を作って行ったような気がします。私の子ども二人がお世話になったのもそういう「泉の会」の勉強だけでない良さを深く感じたからです。
石井 確かに「進学一辺倒」「落ちこぼれをどうするか」と学校の成績だけを問題にしている塾もまだ多いのですが、私が社団法人「全国学習塾協会」会長として全国を回らせていただくと、最近の若い先生たちの多くの塾では、子どもの未来について模索し意見をぶつけ合いながら非常に広がりのある教育をやっておられます。ハチマキを締めて「エイエイオー」とやっているような塾はごく一部になってきました。
やがてすべての塾が体質を変えざるを得なくなります。ハチマキを締めて「エイエイオー」とやっているような塾はごく一部になってきました。やがてすべての塾が体質を変えざるを得なくなります。
「必死でやる」、「一生懸命やる」ことを「ダサい」と言う表現で避ける子ども大人の生き方が反映
氏田 現代の子どもたちには余りに多くの情報が与えられ過ぎて、子どもたちの行動に不自然さが出てきているように感じます。先生はどう考えておられますか。
石井 どんどん新しい情報が入ってくるので子供たちは非常に忙しく、それを取捨選択する能力を養い訓練することができていません。それを指導するのは家庭・学校・学習塾・地域社会ですが、そのためには大人が子どもと同じ視点で遊びを経験し、子どもと同じ立場でマンガを読み、テレビを見ることが前提条件です。「ファミコンゲームやパソコンゲームで「バーチャル・リアリティ(仮想現実)」の中で育った子どもが簡単に犯罪を犯す」などと言う大人が多いのですが、「私達大人が本当に「バーチャル・リアリティ」の世界を体験したことがあるのか」と言うと実はほとんどの人が無いのです。三十代の人は共有体験を持っているのですが、それ以上の年代の人達は、口ではいろいろ言うのですが現代の子どもとの共有体験が無く概念だけでものを言っています。
氏田 大人は子どもの世界を知ろうとせずに、いいとか悪いとか評価していますね。それは私も感じます。
石井 子どもたちは短い何年かの経験でしか答えが出せませんから、親や周囲の大人から見て、危なっかしい答えを出すことがあるのは当然です。しかし子どもが出した答えをまず聞いて、それについて大人の判断を押し付けるのでなく、一緒に考えることが必要で、その前提は子どもと共有体験を持つことです。
氏田 親の生き方、子どもへの関わり方が大切なのですね。
石井 昔の親は自分も貧しく必死に生き、また必死で子どもを育てました。ところが今の親は自分も必死に生きること無く、子どもと共有体験を持つ努力をして必死に育てることもありません。ほったらかしにして育てて「ごめんね、だからこれでなんとかしてね」とお金を渡します。社会全体の流れなのかも知れませんが、大人の生き方がおかしくなっているところに子どもの問題の根っこがあるような気がします。
氏田 そういう親を見ている子どもたちは「必死でやる」「一生懸命やる」ことを「ダサい」と言う表現で避けようとしていますね。
石井 まじめに一生懸命やることに対して揚げ足を取ったり、ちゃかしたりして、一方で「内申書でボランティアはプラスになりますよ」というと一生懸命ボランティア活動をするのです。自分の気持ちが点数にすり替えられています。
氏田 必死で生きているとか一生懸命やっていることが、評価きれる世の中になって欲しいですね。
石井 でも子供たちの意識は意外に健康だというデータもあります。小学校高学年の子どもたちに支持されているナンバーワンの人気者は、フランスでは「消防士」、一番ダサいのは「政治家」。日本では「大工さん」がナンバーワンの人気者です。どちらも一つのことに燃えていると言う点で共通しています。
子ども達が、燃えるものを見つけることができるようにいっしょになって考えることも学習塾の大きな役割のひとつです。
「すべての子ども達が目を輝かせて生きて行くことのできる環境を
氏田 先生が平成十年から会長をされている社団法人「全国学習塾協会」というのはどういう活動をしているのですか。
石井 昭和六十三年に通産省から設立許可を得た全国唯一の学習塾の公益法人です。通産省が学習熟を事業として認めて、消費者保護の立場で支援しようと公益法人化したのです。
氏田 学校教育でも学習塾が認められるようになりましたね。
石井 文部省も昭和六十三年から学習塾を認めています。しかし文部省は「学習塾は勉強だけを教えるところ」としかとらえていません。文部省は2002年に30%の学習カットを決めています。「七五三」と言われるように「高校生で七割、中学生で五割、小学生で三割の子供が勉強についていけなくて落ちこぼれている」という調査が出たので、小学生の学習内容を三割カットをすれば落ちこぼれ問題は解決するという非常に安易な考え方です。それによる全体の学力の低下、さらに勉強したいと言う意欲のある子どもの勉強を「学習塾」にゆだねようとしています。しかしそれでは現代の日本の社会が抱えている子どもの問題は少しも解決しません。「全国学習塾協会」の役割は、全国の学習塾の先生方といっしょになって地域全体で子どもの未来を考え行動して行くことです。すべての子ども達が目を輝かせて生きて行くことのできる環境を学習塾が作っていかなければならないのです。
氏田 ありがとうございました。