2011/12/27
【試乗】マスタングの骨太限定車に乗る
2010年モデルとして登場した現行マスタングは、翌年エンジンを一新。V6、V8ともにDOHC化され、V6は96ps、V8は99psものパワーアップを達成した。2012年モデルはこれをベースに、パワーステアリングを3モード選択式とし、V6のアルミホイールを変更した程度。ただし同時に設定された30台限定の特別仕様車「V8GTパフォーマンスパッケージ」は、V8GTクーペ・プレミアムをベースに6速MTを組み込み、ファイナルギアレシオを下げ、サスペンションを固め、ブレーキにはブレンボを採用。タイヤも他のGTがオールシーズンなのに対し、サマータイヤのピレリPゼロを装着するなど、その名のとおりパフォーマンス重視の内容となっている。
V8GTパフォーマンスパッケージを試乗したのは、ツインリンクもてぎのオーバルコース。スタンダードのV8GTクーペ・プレミアムは外周路で乗ったので直接比較はしにくいが、ステアリングはリニア、サスペンションはフラット、ブレーキはソリッドと、5LV8に見合ったシャシーを備え、200km/hオーバーでも安定して直進してくれることが分かった。それ以上に魅力的だったのは、6速MTとのコンビで、418ps/53.9kgmのパワーとトルクをダイレクトに味わい尽くせること。とくに高回転でも一向に衰えない吹け上がりと、フォーッというスモールブロックらしい咆哮は、個人的にはラグナセカを疾走するシェルビーGT350を思い出させてくれた。
試乗コースがオーバルだったので良い面ばかりが目についたけれど、一般道でこのサスペンションが快適な乗り心地を示してくれるかは不明。というのも、その後外周路で乗ったAT仕様のV8GTクーペ・プレミアムが、おおらかな乗り味とダイナミックな走り味を絶妙に両立した、古き良きアメリカンGTの完成形と納得してしまうようなバランスの良さだったから。個人的にはこのノーマルシャシーにMTの組み合わせも魅力的ではないかと。それから2012年モデルで採用された3モード可変式の電動パワーステアリングは、ノーマルとスポーツの重さの差が少なく、個人的にはコンフォートとスポーツの2モードでも良かったのではないかという気もした。
ATのV8GTクーペ・プレミアムで500万円、MTのV8GTパフォーマンスパッケージで530万円という価格で4座クーペを探してみると、1960年代からの宿命のライバルであるシボレー・カマロをはじめ、メルセデス・ベンツCクラス、BMW1&3シリーズ、アウディTT、アルファロメオ・ブレラといった面々が思い浮かぶ。でもこのなかで、ユーザーの嗜好性が近いのはカマロだけだろう。それ以外でキャラクター的に近いのは、BMW Z4や日産フェアレディZといった北米マーケットがメインの2シータースポーツ。一部のユーザーは同じアメリカ生まれでヘリテイジ性が高く、パーソナル感が強いジープ・ラングラーとの比較を考えるかもしれない。
オーバルコースという限定された場面で試しただけだが、V8GTパフォーマンスパッケージが、400psオーバーの5LV8に見合ったシャシーを備えていることは想像できた。これなら箱根でも楽しめるのではないだろうか。それでいてエンジンのトルク感やサウンド、リジッドアクスルならではの挙動など、マスタングらしさはそのまま。同じように初代をモチーフとしたボディをまとうカマロが、エンジンもシャシーもヨーロッパ基準での「いいクルマ」に発展したのとは対照的だ。ブレンボやピレリで武装したからといって欧風になったりしておらず、絶妙にチューニングされたマスタングという仕上がりになっているのが、ファンのひとりとしてうれしい。
(ホビダスオート)