2012/09/01
BMW6シリーズ・グランクーペ
力強さとつややかさ 際立つコントラスト
640iのエンジンは3000cc直列6気筒ターボで320馬力。8速オートマチックトランスミッションが組み合わされている
試乗車には、注文装備となる電動ガラスサンルーフが装着されていた
天井の低いスタイルでありながら、後席に座ってみると想像以上にゆったりとした空間が確保されている。
一堂に会した6シリーズの(手前から)グランクーペ、カブリオレ、クーペ
「駆け抜けるよろこび」を追い求めるドイツのBMWが、世界有数の美しいクーペと評される6シリーズに、4ドアのグランクーペを追加した。
クーペといえども4ドアである以上、実際に座ってみた後席はゆとり十分で、大人4人がきちんと乗れるクルマであった。
6シリーズ・グランクーペには2車種あり、640iと650iでは、エンジン性能が異なる。このうち今回試乗したのは、排気量3000ccで、直列6気筒ターボエンジンを搭載する640iである。排気量4400ccでV型8気筒ターボエンジンの650iは、今年秋に発売となる。
試乗した640iはフローズン・ブロンズと名付けられた艶消しの塗装が施され、優雅というより精悍(せいかん)さと迫力がほとばしる姿である。室内は白と茶のツートーンの組み合わせでオールレザー仕上げ。外観とは一変して何とも艶やかだ。BMW特有の走りのイメージより、豪華な乗用車といった趣である。
5つのモード それぞれの楽しみ
運転席に座ると、ダッシュボードなどのデザインは運転者が中心となるようまとめあげられており、操縦席という感覚が強い。また、電動調節式の座席はかなり調整範囲が広く、どちらかというと低めが好みの私の運転姿勢にぴったりと合った。
試乗会場は郊外の避暑地で、近隣の山道まではホテルや土産物街の一般道を走ることになる。印象は、スポーツカーのように「硬め」の乗り心地であるのは事実だが、ゴツゴツとした安っぽい感覚ではない。たとえば、場面に応じて走行性能を切り替えることができるドライビング・パフォーマンス・コントロールを「スポーツ」に設定しても、跳びはねてしまうような極端な硬さにはならず、しなやかにタイヤが路面をとらえていることが伝わる乗り心地で、むしろ上品さを感じた。
この、ドライビング・パフォーマンス・コントロールは、5つのモードに切り替えができる。スポーツ/スポーツプラス/コンフォート/コンフォートプラス/ECO PRO、それぞれ運転してみると実に面白い。エンジンの動力特性から、8速オートマチックトランスミッションが切り替わるタイミング、サスペンションの乗り心地まで、セットで仕様を変え、まるで別のクルマを走らせているかのように運転感覚を変える。これを試しているうちに試乗時間が終わってしまいそうになった。
320馬力の直列6気筒ターボエンジンは、昨今の他のBMW車のターボエンジン同様に、まるで自然吸気の大排気量エンジンであるかのように、切れ目のない滑らかな加速をもたらす。山道へ入って行き、急な坂を登っていくときも、6シリーズ・グランクーペとしては小排気量の640iであっても、十分以上の動力性能を見せつけられた。とくにドライビング・パフォーマンス・コントロールを「スポーツ」にした際の加速は強烈だ。
重量はあるが、小回りのきくクルマ
車両重量は1880kgに達する。かなり重いが、カーブでは俊敏な動きをした。BMWがこだわる前後の重量配分については、前が950kg、後ろが930kgでほぼ半々だ。これに加え、時速60km未満の時は後輪が前輪と逆向きに操舵(そうだ)される仕組みとなっており、さらに小回りがきくのである。
車体の幅が、1.9メートル近くあるクルマだが、道幅をあまり気にしなくてすむ状況であれば、運転感覚はもっと小型な車種の俊敏さを味わうことができる。
王道をいく4ドアセダンや、2ドアクーペとは趣の違ったクルマである。駆け抜けるよろこびを追求し続けるBMWの中にあって、艶消しの塗装(艶消しでない通常の塗装もある)と豪華な室内、そして外観からは窮屈そうに見えながら室内は十分なゆとりを備える…これまでとまったく別の輝きを持つクルマを目の前にした驚きが、6シリーズ・グランクーペにはあった。
(読売新聞)
http://www.bmw.co.jp/jp/ja/newvehicles/6series/gran_coupe/2011/showroom/index.html