2012/06/17

フォルクスワーゲン ザ・ビートル

























カブトムシ 受け継がれた系譜

 フォルクスワーゲンの原点と言えるビートル(カブトムシ)が、新しくなった。フェルディナント・ポルシェ博士(1875~1951年)が構想した国民車として生まれた初代ビートルは、65年間に世界で2153万台が販売された。独特の外観を現代風にしたニュー・ビートルが誕生したのが1998年。そこからさらにモデルチェンジをした新型ザ・ビートルへと系譜はつながる。

 ザ・ビートルと呼ばれる新型の特徴は、特有の姿をいかしながら大人4人が楽に乗れる室内空間を備えたことだ。また、1200ccの小排気量エンジンにターボチャージャーの過給を加えることで、十分な加速性能を満たしながら、現在の燃費基準であるJC08モードで17.6km/Lの燃費性能を達成した。ちなみに、ニュー・ビートルで最も燃費が良かった1600ccエンジンを搭載した車種は、10・15モードで11.6km/Lであった。基準が異なるため単純な比較はできないものの、かつての10・15モードより厳しいJC08モードでも、新型のザ・ビートルは50%以上、燃費性能が改善されたことになる。

疲れにくさを考えた後部座席

 今回試乗したのは、レザーパッケージの上級車種で、価格は303万円(消費税込み)。今後、ファブリックの座席となるエントリーモデルも輸入される予定で、そちらの価格は250万円(同)と発表されている。価格の差は装備の違いで、クルマの走行性能は一緒だ。

 ザ・ビートルのドアを開け、運転席に座ってまず気づくのは、ダッシュボードのパネルが車体外板色と同じ色であることだ。クルマに乗ってしまうと、自分が乗っているクルマの色を意識できなくなるものだが、こうして室内の装飾に外装色が採り入れられると、クルマの色選びにこだわったかいがあり、うれしいものだ。

 大人4人が楽に乗れるという車内で、後ろの席は、背中を立てた姿勢を強いられるものの、足元や頭上のゆとりはきちんとある。また、背筋を伸ばした着座姿勢は、実はクルマの走行中に体が余分な動きをしにくく、クルマでの移動を疲れにくくすることに一役買う姿勢でもある。慣れれば、かえってこの姿勢の方がいいと感じるのではないか。

 後席の足元は、前席下につま先を入れるようにすることでゆとりが生まれており、頭上はリアウインドーのガラスから位置がずれているため、頭を日差しに直撃される懸念もない。

 荷室は、ハッチバック式の開閉で現れる。その容量は、フォルクスワーゲン・ゴルフより10%ほど小さいとの説明で、意外と物が積めそうな奥行きがある。

滑らかな加速 安定した走り

 さて、いよいよ運転してみると、排気量1200cc+ターボチャージャー付きのエンジンは、なんら不足のない加速でザ・ビートルを速度に乗せていく。この間、7速DSG(ダイレクト・シフト・ギアボックス)のトランスミッションは、滑らかに変速し、メーター内のインジケーターで確認しなければ、何速で走行しているかわからないほど切り替えを意識させない。

 追い越し加速などで急に速度を上げたいとき、アクセルペダルを深く踏み込んでも一瞬応答が遅れる印象があった。これは、無駄なアクセル操作で燃費を悪化させないようにする制御がアクセルに入っているからなのだろう。多くのドライバーは不必要なアクセル操作を行っている。それが燃費を悪化させる一つの要因だ。それで、こうした制御が組み込まれているのだろう。慣れてくれば、追い越しの際、早めにアクセルペダルを踏み込むようにすると、加速に差し支えはないはずだ。これはつまり、予測運転の奨励ともいえる。交通の流れを読んで運転することは、安全運転にもつながる。

 ザ・ビートルの乗り心地は、路面の凹凸による上下の振動がじかに感じられ、やや硬めだ。しかし一方で、高速でカーブを曲がった際には車体の傾きが少なく、走りがとても安定していると感じる。高速道路で長距離を移動する際には、この安定感ゆえに、安心して運転を続けることができるだろう。

窓を開け 運転の楽しさにひたる

 試乗した日は初夏の暖かさで、市街地では窓ガラスを開けて走行した。ザ・ビートルはオープンカーではないものの、風の流れを感じながらの運転がとても心地よく思えた。他の乗用車では、窓ガラスを開けて走ってもそれほど風が心地よいとは感じないものだが、ザ・ビートルの窓からの風の入り具合のよさなのか、それともザ・ビートルの姿や室内の雰囲気が与える愉快な気分がそう感じさせるのか、時速40~50kmのスピードで窓ガラスを開けて走るのがうれしいクルマであった。

 この姿は、どこから見てもビートルの伝統を受け継ぐものだし、独創的な存在感は、あまたのクルマの中でも際立っている。80年近くも前にポルシェ博士が構想した国民車が、今の私たちの心に訴えかける喜びを備えていたことに、改めて感動を覚えるのであった。

 

 

 

 (読売新聞)

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