2012/07/04
メルセデス・ベンツSL
11年ぶりフルモデルチェンジ
その言葉通り、新型SLクラスはアルミニウムの車体を採用して登場した。前型に比べ、重量が最大で140kg軽くなっているという。
今回発売されたのは、SL350とSL550の2車種である。
エンジンは、SL350がV6エンジン、SL550はV8ターボエンジンであり、いずれもガソリン直噴だ。遅れて納車開始となる高性能車のSL63AMGも、V8エンジンはガソリン直噴を採用する。こうして、スポーツカー用エンジンとしての高い性能と、燃費向上を両立している。また、7速のオートマチックトランスミッションは、アイドリングストップに対応している。
SLクラスは、幌ではなく金属製のバリオルーフと呼ぶ屋根を持ち、これを開けてオープンカーとして走ることもできる。開閉に要する時間は20秒以内で、このバリオルーフは、初代メルセデス・ベンツSLKで採用がはじまり、他社にも広がった技術だ。
オープンカーで楽しむ
今回試乗したのは、SL350とSL550にAMGスポーツパッケージを追加装備した2台である。どちらも魅力的なスポーツカーだが、とくに印象深かったのはSL350だった。注文装備は何も追加されていない素のままのSLクラスを、このSL350で体感することとなったが、装備に関して不足は感じない。淡い色の内装は華やかだ。そのうえ、アルミニウムの車体の軽さを存分にいかした爽快な走行感覚がとても心地よかった。
好天にも恵まれ、オープンで走り通したが、時速70km前後の速度まで、両脇のガラス窓を開けた状態で走っても、風の巻き込みを強く感じることはなかった。さらに速度を上げると風の影響が出てくるため、両ガラス窓を上げ、運転席から電動で上げ下げできるウインドディフレクターを活用すると、座席の真後ろに網目状の盾が立ち上がり、これによって風の流れが制御される。頭上を風が流れているとは感じるものの、時速100kmで走行中も頭や体の周りに風が巻き込むようなことはない。
あらゆる速度域でオープンを楽しめるクルマだ。
オープンにした状態のまま、路面のうねりやカーブなどで車体にねじる力が加わった時でも、屋根という支えのないフロントウインドーがゆすられることはない。転倒に備え、窓枠部分だけ超高張力鋼板のチューブを内蔵したスチールシートが使われており、窓枠強化の効果は絶大だ。また、万一の際には頭部を守るロールバーが、座席の後ろに瞬時に立ち上がる仕組みが採用されており、転倒してもドライバーが守られることになっている。
絶妙の重量配分 心地よい運転
SL350のV6直噴ガソリンエンジンは、振動や騒音がよく抑えられ、1710kgの重量に対し動力性能は十分なゆとりを持ち、スポーツカーらしい加速に不足はない。そして、停止すればアイドリングストップが働く。
天気がよく、オープンで走っているのだから、とにかく気持ちがよいのだが、それにしてもなぜこんなに気分がいいのかと思い、諸元を調べると、前後の重量配分がほぼ均等の前860kg、後850kgという優れた配分である。アルミニウムの車体で軽いうえ、前後の配分に優れ、運転操作に対し素直に応答する走行感覚であることが、SL350の運転をより心地よいものにしていることを知る。
いっぺんに気に入ってしまった。
SL550の加速は「すごい」の一言
次に試乗したSL550は、SL350の306馬力よりさらに大きい435馬力のV8エンジンを搭載している。そのうえ、AMGスポーツパッケージの注文装備が追加され、いっそう精悍(せいかん)な内外装となっている。
エンジンはターボチャージャーにより過給されているので、アクセルペダルを床いっぱいに踏み込んだときには、加速をはじめた瞬間、そのあまりの速さに目が追い付かなくなるほどだ。「すごい」の一言に尽きる。この加速の鋭さは、エンジンの馬力だけでなく、車体の軽さによってもたらされたものだ。
V6直噴エンジンを搭載するSL350に対し、SL550はV8直噴ターボエンジンの重さがあることで、前側がやや重い配分になっている。加速中にその重みがハンドルを通じて伝わってくるため、落ち着きある手応えを得ると同時に、鋭い加速にも怖さを覚えることはない。
SL350の調和のとれた軽やかさとオープンの心地よさに対し、SL550は重厚さの中に鋭い速さを秘める。この高性能ぶりは、屋根を閉じた室内空間の中でひたすら運転に集中したい気持ちにさせた。
SLクラスという同じ車種でありながら、SL350とSL550では、それほど持ち味の違いがはっきりしており、それぞれに選ぶ理由があると思った。
メルセデス・ベンツのすごさや素晴らしさを凝縮したスポーツカー、それがSLである。その魅力は、世代を重ねても変わることはない。
(読売新聞)