2009/12/03
~ブルーモーション~ フォルクスワーゲン ポロ 試乗レポート【前編】
そんなひと言を記したのは、2009年9月3日の「まなブログ」でのこと。ドイツ本国
でVWのブルーモーション・シリーズが発表され、その内容を受けてひらめいた言葉
だった。日本という国に住んでいると、自動車の未来はハイブリッドかEVか、という
感覚に浸され知らぬ間に近視眼的になる。
事実、トヨタは新型プリウスで今年30万台近い受注を得た。ホンダはインサイトで
善戦する。三菱はi-MiEVの一般向け予約を始め、 日産も来年送り出すEV、リーフ
の先行予約を始めた。
時代は確実にエレクトリックな方向に舵が切られていると思える。
日本にいる限りは。
しかし、そんな状況の中でドイツのVWが提示したブルーモーション・ シリーズは、
意外にも既存技術の積み上げによる成果だった。ハイブリッドかEVかという形式的
な分類からすれば、それはコンベンショナルなディーゼル・エンジン搭載車、と記せ
てしまう。
だが、驚くことにブルーモーション・シリーズの尖兵であるポロ・ブルーモーション
は、欧州複合モードで実に3.3L/100km(30.3km/L)という燃費値を記録し、
CO2排出量も87g/kmという優れた数値を実現した。
ちなみに新型プリウスの同モードでの燃費値は25.6km/L、CO2排出量89g/
kmだから、ポロ・ブルーモーションは最新のハイブリッドである新型プリウスよりも
優れた数値を実現した、ということになる。
日本にいると38.0km/L(10・15モード燃費)という数字には圧倒的な説得力が
ある。しかしVWはハイブリッドやEVなどの電動化だけが未来に対する答えでは
ないことを数字で証明したのだ。
今回ハノーバーで試乗したブルーモーション・シリーズの話をする前に、ここでま
ずVWにおけるブルーモーションとは何なのかを整理しておこう。その関係性や位
置づけは少々複雑でかなりややこしいがお付き合い願いたい。
まずブルーモーションの名が初めて用いられたのは、2006年5月に発表された
先代ポロ。当時5人乗り乗用車として世界最高の3.9L/100km(25.6km/L)を
実現した。
以降、ブルー モーションは進化し続け、今日では全てのブルーモーションモデル
とテクノロジーを統一ブランドである「ブルーモーション・テクノロジー」としてまとめ
ている。
そしてこの傘下に、ブルーモーション/ブルーモーション・テクノロジー/ブルー
TDI/TSIエコフューエルという4つのコンセプトブランドがある。
ブルーモーション・テクノロジーと呼ばれる統一ブランドの傘下にある同じ名前の
ブルーモーション・テクノロジー(ここがややこしい)とは、TDIエンジンやTSIエンジ
ンを搭載したモデルに設定される装備パッケージ(アイドルストップや回生ブレーキ
等)で、リアにこのエンブレムが与えられると同時にブルーモーション・テクノロジー
仕様と呼ばれる。
そしてブルーTDIは各クラスにおいて最もクリーンなディーゼルエンジンを搭載す
るモデルへの名称であり、TSIエコフューエルはTSIのツインチャージャーを用いる
ことで、天然ガスとガソリンの2つの燃料が使用可能なモデルを指している。
そして今回試乗したブルーモーションは、同社にラインナップされる各モデルにお
いて最も高い環境性能を得たモデルに与えられる名称のこと。当然ここに与えられ
る技術は、ブルーモーション・テクノロジーの名の下に、現時点で利用可能であると
同時にユーザーに大きなコスト負担とならない(ハイブリッドのように高コストではな
い)全ての技術が投入される。
既存技術の徹底追及でもある
それらの技術を具体的に記すならば、新設計のコモンレール・ディーゼルエンジンで
あるTDI、制動時のエネルギー回収システム(回生ブレーキ)、アイドリングストップ
システム、そして洗練されたエアロダイナミクス処理などが挙げられる。が、さらに専
用ギアレシオを持つ5速MTや高効率なシフトを指示するシフトアップインジケーター、
低転がりタイヤ、ローダウンシャシーが与えられている点も見逃してはならない。
つまりは既存技術の徹底追及でもあるのだ。
こうした技術群が盛り込まれたのがポロ・ブルーモーションであり、同時に用意さ
れたゴルフおよびパサートのブルーモーションという計3台での試乗となった。
ハノーバー空港に隣接した試乗会場でポロ・ブルーモーションを見て最初に出た
言葉は「カッコいい」だった。通常環境性能の高いクルマに造形的なカッコ良さは
あまり感じないが、ポロ・ブルーモーションにはそれが確実にある。
例えばフロントグリルは空力向上のため閉じられた上でブラックアウトされるし、
フロント/サイド/リアの全てにスカートを与える。またタイヤは15インチでハイトも
高いが、アルミはプリウス同様にアルミ+カバーで空力を追求した形。
まずは見た目で素直に魅力があるという事実で、環境対応車の常識を覆してい
るのだ。
真っ先にポロ・ブルーモーションを選び走り始める。今回の目玉といえるこのモデ
ルは新開発となる1.2リッター3気筒TDIを搭載するのが特徴。VW初となるデル
ファイ社製のコモンレールを採用し、最高出力75ps/4200rpm、最大トルク180
Nm/2000rpmを発生する。
3気筒は振動や騒音が不安だが、バランサーシャフトを備え配慮。ただし始動時
~2000rpm手前まではディーゼルだと判る音がある。 もっとも搭載される器が
ポロというコンパクトカーゆえ、この辺りは仕方ない。
街中&郊外で29.4km/Lを記録
組み合わせる5速MTは専用ギア比。当然ハイギアード化され、5速の60km/h
では2000rpmを大きく下回る。だがそれでもドライバビリティが高いのはディーゼ
ルゆえ。それだけに街中でもシフトアップインジケーターの指示に従えば本当に5速
で走れてしまう。
ようは2000rpmを超えずに走らせることができる。一方で踏み込めば車格と排
気量に似合わぬ大トルクが気持よく、“回す楽しみ”も決して諦めていない。同時に
乗り味に関しても、当たり前だがハイブリッドのような違和感は微塵もない。
新型ポロの真骨頂であるクラスを超えた乗り心地の良さはそのままに、ハンドリ
ングも極めてリニアで気持よい感覚を存分に味わえるのだ。そしてこの辺りもまた、
燃費向上を優先したアライメントを持つハイブリッドとは明らかに違うと感じる部分。
欧州仕様で1080kgの車重の軽さも効いている。ようは環境対応車であっても、
自動車の本質である走りの良さを少しも諦めていない。これは実に好印象だ。
ただせっかく素晴らしい数値をアナウンスしているのだから、こちらとしても試乗で
それが拝みたいのが本音。だからここはひとつ、エコランをしてみることにした。もち
ろん周りに迷惑をかけないレベルで、だ。
試乗コースにアウトバーンがあったのはほんのわずかで、ほとんどが街中と郊外
という状況。しかも車速からして日本とさほど変わらぬ感覚。それなりに渋滞もある
から、燃費計を見てイライラする状況もほぼ同じだ。しかし、そんな条件下ながらも
表示された燃費はなんと3.5L/100km(=28.57km/L)。
さらにその後同業の渡辺敏史さんにバトンタッチしたら、さらに伸びて3.4L/100
km(=29.4km/L)を記録! 残念ながらカタログ値の3.3L/100kmには達しな
かったが、試乗でこのレベルなのだから驚きだった。
おそらくテストで定常走行をすれば、燃費計には2.0L台/100kmを拝めるだろう。
(カービュー)