2009/12/04

~ブルーモーション~  フォルクスワーゲン ポロ 試乗レポート【後編】


フォルクスワーゲン|ポロ|ブルーモーション|既存技術|環境性能

最も効率の良い1気筒あたりの排気量は?

フォルクスワーゲン|ポロ|ブルーモーション|既存技術|環境性能

さらに同じブルーモーション・シリーズのゴルフ/パサートに乗り換える。こちらは
1.6リッター4気筒TDIを搭載する。VWのエンジンに対する考え方は実に判りやすく、
9月のフランクフルトショーでパワートレーンのエキスパートであるクリスティアン レ
ンシュ=フランツェン氏に聞いたところ、1気筒あたりの最も高効率な排気量はディ
ーゼルで400cc、ガソリンで300ccとのこと。

そう、今回のブルーモーションもポロが1.2リッター=400cc×3気筒で、ゴルフと
パサートは1.6リッター=400cc×4気筒なのである。

ゴルフVIは日本でも高評価だが、このボディに1.6リッターのTDIを乗せた今回
のブルーモーションは、環境性能の高さはもちろんだが、何より走りの良さに唸ら
された。

ちなみに車格では“ゴルフ<パサート”だが、登場フェーズでは“パサート<ゴルフ”
となる。パサートとてゴルフVとアーキテクチャを共用した上で上級モデルに相応し
いモディファイがなされるが、今回のゴルフ・ブルーモーションはそんなパサート・
ブルーモーションよりも断然優れた乗り味を示した。

乗り心地に優れる上にハンドリングが良く、乗り味は現在のVWの中で最高とい
える。同じ1.6リッターのTDIを搭載しながらパサートより静粛性が高く、振動も抑え
込まれている。ゴルフ/パサートとも最高出力は105ps/4400rpm、最大トルクは
250Nm/1500-2500rpmとなるため、まさにどこからでも力強く滑らかさを存分に
味合わせる。これも専用5速MTとの組み合わせだが、トルクがあるのでAT感覚で
乗れてしまう。

こんな具合だからポロから乗り換えると高級車に乗り換えた感覚すらある。そして
この辺りにまた共感を覚える。ゴルフ・ブルーモーションの燃費値は3.8L/100km
(=26.1km/L)とやはり新型プリウスより優れる(※新型プリウスの欧州複合モード
燃費は25.6km/L)。それでいながら走りの差はまさに雲泥といって良いほど。

静かで滑らかで力強いという高級車の魅力が全て備わるのだから。
そしてもちろん走らせて気持ちよい。たとえ街中で30km/hでも。これには感銘を
受けた。

もちろんそうはいってもパサートだって全然悪くないどころか、むしろこれはこれで
理想的。設計年次を考えれば相変わらず優れた乗り味を示す。ようはゴルフが凄
過ぎるのだ。それにパサートでエコラン試乗してみると、最終的には3.9L/100km
(25.6km/L)というカタログ値以上の数字が出たほどだ。


バッテリーはまだまだ高い

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VWは今回3台のブルーモーションを発表すると同時に、「パワートレーン/燃料
戦略2.0」と題して将来への明確な意志を発表した。

それによれば電気自動車への道のりはまだ遠く、2020年時点で1.5%程度のシェ
アと予測する。同時に残り98.5%のクルマはコンセント以外の場所から燃料を補給
するだろうと。

それまでの10年~20年においては、TSIやTDI(ガソリン/ディーゼルエンジン)
が主流であるととらえ、これらを再発明する意気込みで重きを置いていくという。

もちろんハイブリッドやEVに否定的なわけではない。2010年からはゴルフ・ツイン
ドライブと呼ばれるプラグインハイブリッドがベルリンでフリートを始める。

これは50km走行可能なEVモードを備え、バッテリーがなくなっても低燃費のTDI
で駆動することが可能だ。しかしこのツインドライブに対しても現世代のゴルフでは
実用化されない。理由はバッテリーの価格が極めて高価だからとアナウンス済みだ。

またEVに関しては、9月のフランクフルトでe-up!を発表したが、あくまで2013年
からの少量生産とアナウンスしている。

理由はe-up!のバッテリー価格がまだ8000~12000ユーロするからだと明言し
ている。つまり全長3.2mのスモールカーで130kmの航続距離を実現するための
18kWhのバッテリーでも、それほど高いのである。

さらに2013年にはカーボン製ボディを備えた2気筒TDI+モーターを搭載したモデ
ルも少量で販売するという。これはフランクフルトで発表されたL1の市販版である。

加えてバイオマスを原料としたサンフューエルやセルロース/エタノールという再
生可能な原料からの燃料生産に加え、複合燃焼システム(CCS)の開発にも力を注ぐ。

つまり全ての考えられる技術を研究開発しつつも、そのトーンとしてはあくまでも当
面の主役はTSIやTDIといっているのだ。

EVに関して普及したといえるのは、現在のポロと同じ規模で量販される時であり、
その時にはモーターを駆動するためのエネルギーを、再生可能なエネルギーソース
から得られるようにしなければならないとする。

そしてそのための技術開発が、このパワートレーン/燃料戦略2.0における真の
山場なのだと。


走る歓びに欠けるクルマは・・・

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壮大かつ綿密なシナリオの元に、VWは少しずつ全ての駒を進めている。未来を先
取りすることで夢や希望を見せるのも自動車メーカーとしてのひとつの手法だが、
VWはあくまでもまだこの先も全自動車のほどとんどを占めるだろうガソリン/ディー
ゼル車に対しての革新に重点を置いている。

つまりより現実的な状況に対しての答えを出しているともいえるのである。

ハイブリッドやEVを手にすることができるのは、まだ限られた人たちといえる。しかも
それらはまだ、自動車の本質である走りにおいてエクスキューズもある。VWは従来
通りの自動車でありながらも環境に対応した、誰もが手にすることのできるクルマを
送り出しているのである。

最も大切なことは先日、日本で開催されたシンポジウムでウォルフガング・ミュー
ラー・ピエットラ氏が語ったひと言にある。

「走る歓びに欠けるクルマは作るつもりがない。誰の役にもたたないからだ」。

今回、ブルーモーションを試してその言葉を痛感した。これほど優れた環境性能を
持ちながらも、そこには自動車の本来的な楽しさと気持ち良さが満ち溢れていたからだ。

ハイブリッドやEVでなくとも、環境性能に優れたクルマを作ることが可能である、
ということをいち早く現実として示したVWの意志には頭が下がると同時に心から
感謝したい。

皆が盲信的になってしまうのは正常ではないし、盲信的にさせないための策があっ
て然るべきだからである。

ブルーモーションに触れれば「答えはひとつじゃない」ことが理解できる。僕らは
今後もうつむくことなく自動車の楽しさ気持ち良さを享受できるはずだ!

(カービュー)


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