2009/12/15
メルセデス・ベンツ Eクラス ステーションワゴン 試乗レポート
キング・オブ・ワゴンの最新版
まさに、鉄壁。メルセデス・ベンツ、新型Eクラス ステーションワゴンに相応しいのは、
そんなひと言だろう。なぜならEクラスワゴンは代々「キング・オブ・ワゴン」あるいは
「キング・オブ・エステート」と称されてきた高い定評を持つ1台。
それだけに、最新版は文句のつけようがない存在といってもいい。目の前にある
新型Eクラスワゴンは、長い歴史と伝統あるメルセデス・ベンツのブランドを象徴する
ような威厳をたずさえて佇み、無言で圧倒的な存在感を物語る。
メルセデス・ベンツが最初のエステートを世に送り出したのは、今から30年以上前
の1977年のこと。しかもこの時から既にその立ち位置は、プレミアムなライフスタイ
ルを持つ人々をターゲットとするものだった。
そして実際に、そうした人々の期待に応えると同時に高い満足度を与えてきた
経緯がある。
そんな歴史と伝統からくる威厳と強い存在感が、新世代のデザインを纏ってもなお、
薄れることなくオーラのように全身から放たれる。その証だろうか、ひと目見ただけ
でこのワゴンは単に生活の足ではなく、単に荷物を運ぶためだけの道具ではない
ことを教える。
もちろんそれは1970年代に初めてエステートを送り出して以降持ち続けている
雰囲気=他のワゴンからはあまり感じないプレミアムなライフスタイルを想わせる
感覚だ。
デザインそのものはセダン同様に新世代のメルセデス・ベンツのそれ。
だがセダンと異なり新たに与えられたリアセクションによって豊かなライフスタイル
を想起させる。
特にセダンでも用いられたポントン・メルセデスのデザインモチーフであるリアフェ
ンダー上のカーブは、セダン以上にボディサイドで目を惹くアクセントになっている
と同時に、プレムアムなワゴンに相応しい豊かさとして感じられるものだ。
しかし何といってもキモはそのラゲッジルームだろう。
機能性に更に磨きが
新型Eクラスワゴンのインテリアは基本的にセダンのそれを受け継ぐ。
その上でリアセクションでワゴンボディが構築されることによってラゲッジが拡大さ
れるわけだが、テールゲートを開けると改めてその広さに驚かされる。
既に先のページで、Eクラスワゴンはプレミアムなライフスタイルを想起させる感
覚がある、と記した。しかしその一方でワゴンとしての機能が極めて高く、実用品
として超一級のレベルにあることもまたこのクルマが「キング・オブ・ワゴン」と称さ
れる理由だ。
後席が使えるデフォルトの状態でも驚くくらいの広さ(容量にして695L)を持つが、
後席を前方へフォールディングすることによって最大で 1950Lもの容量を持つ広大
なスペースが生まれる。
その広さがどれほどかといえば、例えば前席の後ろからラゲッジ開口部までの
奥行きは、身長168cmの僕が寝転んでもまだ40cm近く余裕があるほどだ。
そして広さや容量だけではなく、使い勝手を先代からさらに向上させている。
それが新たに採用されたクイックホールドと呼ばれる機構。これは後席をワンタッチ
で倒すためのレバーで、レバーはリアドア後方のCピラーとラゲッジ開口部側の
Dピラーに用意される。
さらに先代モデルから採用している電動式のテールゲートが今回標準装備となっ
た他、やはり先代から採用する荷室を自在に仕切れるキット、イージーパックも用意
される。
もちろんラゲッジ開口部側のスペアタイヤ収納位置にも工夫が凝らされ、床板を
上げることでコンパートメントフロアができあがる。
例えばEクラスセダン日本仕様はトランクにゴルフバック4つが入るが、厳密にい
えばゴルフバック4つ+ボストンバック4つでなければ本当の意味で使えるとはいえ
ない。
しかしEクラスワゴンはゴルフバック4つ+ボストンバック4つを飲みこむ。これは
極端な例えだが、要はそれだけ収納の能力/自在性は高い、ということだ。
エントリーでもメルセデス
では走りについて記そう。今回試乗したのは、E250 CGI/E350 CGI/E250
CDIという新世代ブルーエフィシェンシー・シリーズと、5.5リッターV8を搭載する
E500および6.3リッターV8を搭載するE63 AMGの計5モデルだった。
エンジンから受ける印象は当然セダンと同様のもの。そうした中で印象的なのは、
やはりセダン同様に最も小排気量となるE250 CGI ブルーエフィシェンシーだった。
セダンに比べてワゴンは当然車両重量が増すため、同じエンジンならば出力的
には不利になる。しかし実際に走らせてみるとE250 CGIはセダン同様に好印象
の方が強かった。
もちろんワインディングやアウトバーンでは、もう少しパワーが欲しいと思うわけ
だが、これはセダンでも同様。実際それ以外に不満はないし、ワゴンになったこと
による重量増に対して、セダンよりも穏やかに感じるエンジン特性が逆に味わい
深さを生んでいるともいえるわけだ。
そしてもちろんこれもセダン同様で、エンジンの気筒数/排気量が上がるに連れ
て上質さや味わい深さは増していく。つまり、上級になればなるほどエンジンの質
の高さが走りの良さに融合していく。
しかしだからといって最もベーシックなE250 CGIの質が低く感じることがない、
というのがメルセデス・ベンツらしいところだろう。
そして乗り味走り味に関しては、セダンよりも一層熟成がなされた感覚を受けた。
ワゴンは先代モデルでもそうだったが、全車でリアにエアサスを備える。これは荷物
を積載した時にも同じ車高を維持するためだが、このエアサスは乗り味の良さにも
大きく貢献している。
だからセダンの廉価グレードでは前後メカサスとなるのに対し、ワゴンでは廉価
グレードで前メカサス/後エアサスという組み合わせになり、これが乗り味の良さ
や味わい深さにつながっているのである。
そして何といっても刺激的だったのがE63 AMGワゴン。このモデルはシリーズ
中もっとも硬派な味付けとなる。新型E63 AMGは既にセダンで登場しているが、
こちらも歴代のEクラスAMGの中ではもっとも過激なモデルになっている。
ではそのワゴン版はというと…、これもまた過激さは同じで、もう少し穏やかでも
いいんじゃないか? とすら思える。もっとも最近のAMGは過激さがウリだから、
それはそれで方向性がビシッと決まっているとも言えるのだが…。
といった具合で様々なグレードに試乗したが、用意されていたわけだが、全般的
な印象としてやはり「キング・オブ・ワゴン」と言われるだけの走りがそこに確実に
進化したものとして与えられていると思えたのだった。
大きな円を思わせる仕上がり
ではそれがライバルであるBMW 5シリーズツーリングや、アウディ A6アヴァント
とはどのように異なるのか?
結論から先に記してしまえば、Eクラスワゴンは決してスポーツ/スポーティを志向
しないところにある(E63 AMGは別として)。5シリーズツーリングもA6アヴァントにも、
求める方向性としてはスポーツ/スポーティが少なからずある。
そしてそれは操作系のダイレクト感や速さ、乗り味走り味などに表れている。
言ってみればこの車格だからこそ持つ余裕/ゆとりを、運動性能のために使っている
といってもいい。
それゆえに5シリーズもA6も想像以上にスポーティだし、いわゆるドイツ車的な良い
意味での硬さがある。また両者ともデザインとしてモダンな方向を強くむき、そこに
プレミアムを求めようとする感覚が少なからずある。
これに対してEクラスワゴンは、あくまでもラグジュアリーな走りを志向していると
いえる。実際に走らせても、感じるのは乗り心地の良さ、ハンドリングの忠実さなど、
ドライバーおよび乗員を癒すような感覚だ。
乗り味走り味に関しても、ダイナミクスそのものは2台と同レベルにあるのだが、
決してそれを前面には出さず、しみじみと感じさせる慎ましさがある。またデザイン
に関しても、基本的に新世代のものを手にしたモダン方向にあるが、プレミアムを
強く感じさせるためのものではなく、あくまで機能性の高さを志向した結果のもの
としてそこにある。
そしてそうした乗り味やデザインの融合として何が違うかといえば、5シリーズや
A6というのはトレンドにしっかりと乗ったプレミアムワゴンであるのに対し、Eクラス
ワゴンはあくまでも歴史と伝統を感じさせる雰囲気で、2台とは異なるプレミアム感
をしっかりと醸し出しているのだ。
Eクラスエステートは、見た目や雰囲気、ブランド性はもちろんのこと、ラゲッジの
広さや使い勝手といった実用性、そして走りと、全ての項目に渡って納得のできる
素晴らしいものが構築されている。
そう考えると、これほど優れた個々の完成度の高さを持ったうえで、それらがバラ
ンスしており、実に大きな円を思わせる仕上がりなのだから頭が下がる。つまりどこ
にも不足がない上に全てが完璧、とさえ思えるのである。
だからこそEクラスワゴンは、その存在からして豊かさを象徴するのだろう。
その意味でEクラスワゴンには、「プレミアム・ライフスタイル・エステート」という称号
が相応しいと、つくづく思えたのだった。
(カービュー)