2011/01/09

インプレッション Vol.350 アウディ RS5



アウディA5の車体に、メッシュタイプのグリルや、
左右の大きなエアインテークなどRS5専用の加飾が加わる


運転席の雰囲気は高級乗用車の趣だが、
速度計を見ると320km/hまで目盛りが刻まれ、
スポーツカーであることを思い出させる


450馬力のV8エンジンは縦置きに配置され、
“クワトロ”とアウディが名付ける4輪駆動により
前後のタイヤへ動力が伝達される


シルクナッパレザーの座席はクッションの
組み合わせが美しく、そのクッションの造形は
高速でもしっかり体を保持する機能を持つ


ダッシュボード中央の空調の吹き出し口下に、
「コンフォート」「オート」「ダイナミック」
「インディビジュアル」の四つの走行モード切り替え
スイッチがある


メッシュ状のサンシェードをスライドさせると、
ガラスサンルーフが現れる。
後端を若干持ち上げるチルト機構により換気が可能


高性能と上質な乗り心地が共存するスポーツクーペ

 ドイツのアウディから、RS5が発売となった。
RSとは、レーシング・スポーツの意味である。
それだけに、レーシングカーを思わせる猛烈な走りを体感させた。

 同時に、とても扱いやすく快適なドライブも楽しませる。
そんなふたつの喜びを与えるクーペである。

 車体の基は、アウディA5だ。
4ドアセダンのA4を基に開発された2ドアクーペである。
実用性の高いクルマに人気が集まる昨今、
2ドアクーペはなかなか売れないと言われるが、
格好いいクーペは売れることをA5は示した。
「よく売れる」と、アウディ・ジャパンは喜んでいる。

450馬力を発揮する4.2L V8エンジン


 RS5は、A5の走行性能を最高水準に高めたもので、
価格は約2倍となる1,204万円だ。
この価格差は、どこから生まれるのか?

 RS5のエンジンは、
排気量4,200ccのV8で、450馬力。
このエンジンを、
熟練工が1基ずつ組み立てるのだという。
レース用エンジンの組み立てと同じやり方だ。

そのエンジンに7速のツインクラッチ式
トランスミッションが組み合わされる。
奇数段と偶数段のギアのクラッチを、
それぞれ交互につなぎ替えることにより、
100分の数秒でギアチェンジを終えることが
できる。
基本的な機構は、
フォルクスワーゲンのDSGと同じだが、
電子制御を使って変速の速さを走行状態に
応じて切り替えられるようにしている。
このエンジンとトランスミッションにより、
発進から100km/hまで加速するのに、
わずか4.6秒である。
一般的な乗用車で十数秒だから、
猛烈な加速力である。
速度計には、320km/hまで目盛りが
刻まれている。

 世界で唯一、速度無制限区間がある
アウトバーン(高速道路)を持つ国の
スポーツカーだけのことはある高性能ぶりだが、
いったいそのスピードはどこで試せるのか?…
とはいえ、いざ走ってみると、
その片鱗を体感するだけでも異次元の世界に
足を踏みいれた感動がある。
RS5は、電子制御により、
「コンフォート」「オート」「ダイナミック」
「インディビジュアル」の4段階に走行モードの
切り替えができる。
なかでも、「ダイナミック」に定すると、
まさに走ることのみに全精力を傾けた走行モードとなる。

 「ダイナミック」のスイッチを入れたとたん、
アイドリングしているエンジン音さえ変わる。
V8エンジン特有の、
ドドッドドッドドッという振動とともに、
腹に響く猛々(たけだけ)しい排気音が
周囲にこだまする。
アクセルペダルを床まで踏み込めば、
最高8,250回転/分というエンジンが
唸(うな)りを上げ、猛然と加速していき、
たちまち100km/hに到達するのであった。
一瞬、その速度に目が追いつかないほどだ。

 カーブが迫り、フルブレーキを掛け、
マニュアルシフトモードでギアチェンジをすると、
100分の数秒という瞬間的なダウンシフトが完了し、
カーブに進入。
そこからの次の加速に遅滞なくクルマがついてくる。
かつて、もう30年も前にレースを戦った場面が、
きのうのことのように思い出された。

しなやかな乗り心地

 このクルマは、レーシングカーだと思った。

 一方、「オート」または「ソフト」モードに切り替えると、
猛々しかった排気音は影を潜める。
ギアチェンジの時間もやや長めとなり、ゆったり加速していく。
そこで改めて室内にも目を配れば、
シルクナッパレザーの座席はクッションの組み立てから
縫製まで、見るからに美しく芸術的な仕上がりだ。
見上げると、天井には後端をチルトアップできる機能を
備えたガラス製のサンルーフがあり、
同時に左右の窓を開けて山あいの道をたどれば、
オープンカーにでも乗ったように気分も晴れやかな
運転を楽しむことができる。

 サスペンションの設定は、
走行モードごとの切り替えがないにもかかわらず、
スポーツカーと聞いて想像されるようなゴツゴツとした
硬い乗り心地ではない。
では、それで「ダイナミック」モードのときに不足はないか
と思われそうだが、そのしなやかさが路面の凹凸を
巧みにとらえ、荒れた舗装のカーブを曲がっていても
タイヤが路面をとらえ続け、ぐいぐいとクルマを引っ張る
効果を生み出し、不安定になることはない。

 たぐい稀(まれ)な高性能と、
きわめて上質な乗り心地とが共存する、
まさにその高価な値段にふさわしい満足をあたえる
スポーツクーペなのであった。

                     (読売新聞)


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