2011/05/19
最上級セダン アウディ A8
気品ただよう最上級セダン
ロングボディーの後席は、通常のままでも十分足元に余裕のある快適な空間である
運転席。前方視界も十分に確保され、軽快な運転感覚を楽しむことができる
排気量4200ccのV8ガソリン直噴エンジンの最高出力は372馬力。ロングボディー車の燃費は10・15モードで8.1km/Lである
広々とした荷室には12ボルト電源、傘をしまうホルダーなどがあり、使い勝手の良さにも細かく配慮している
荷室から、後席背もたれの中央を開けると、長尺の物を車内へ積み込めるようになっている
エグゼクティブリアシートを活用し、後席空間を最大に広げた様子。航空機のビジネスクラスを思わせる広さとなる
アウディA8は、ドイツのアウディ社における最上級の高級4ドアセダンである。新型A8は3代目にあたり、昨年暮れに発表された後、今年2月から日本での納車が始まっている。
車種はエンジンの違いで2種類、排気量3000ccのスーパーチャージャー付きV6ガソリン直噴と、4200cc/V8ガソリン直噴があって、後者のV8エンジンには、車体の全長が13センチ長いロングボディー仕様が設けられている。今回、試乗したのは、そのロングボディー車のA8 L4.2FSIクワトロだ。
試乗車の室内は、淡い茶色の優雅な雰囲気で、アルミの装飾と木目が適度にあしらわれていて、きりっとした緊張感も併せ持つ。外装の黒のメタリック塗装との対比も美しく、運転手付きで後席に乗るのがふさわしいような気品を漂わせる。
運転席に座ったときの前方の視界は良い。5.3メートルを近い長さの車体であっても走り出すとあまり長さを意識させない運転感覚でもあり、見た目の大きさに比べ、その扱いやすさに安心させられる。排気量が4200ccもあるV8エンジンは、軽くアクセルペダルを踏み込むだけで、みるみる速度を上げていき、高速道路も淡々と走る。
2トンを超えながら軽快な乗り心地
走行中、なにより印象深いのは、軽快な乗り味だ。車両重量が2060キロもあるクルマが軽快だと言うのはおかしなものだが、2トンを超える重いクルマを運転しているとは思えない動きの軽やかさが感じられるのだ。その理由は、アルミ製の車体にあるのだろう。アウディA8は、94年に誕生した初代からアルミ製車体を用いている。それによって、鋼板製の一般的な車体に比べ40%も軽く仕上がっているというのである。
アウディA8の競合車は、同じドイツのメルセデス・ベンツSクラスや、BMW7シリーズなどだが、それらに比べ、明らかに乗り心地が異なる。同じくアルミ製車体を特徴とするイギリスのジャガーXJに近い乗り味だ。
アルミ製とすることによる軽さが、乗り心地に通じるところがあるのだろう。しかし、それでも、ややジャガーとは違うと感じられるのは、アウディがドイツ車であるからなのかもしれない。
タイヤの扁平率が45%という、ホイールリムの方が目立つほど厚みの薄いタイヤを装着しているにもかかわらず、路面の凹凸の衝撃をほとんど体に伝えないサスペンションの作り込みがなされている。
特徴的なのは、そのサスペンションを構成するバネが金属コイルではなく、密閉した空気を使っているところだ。そして、速度が高くなるほど走行安定性を増していくあたりは、速度無制限区間のあるアウトバーンを持つドイツ生まれだけのことはある。
サスペンションには、スポーツモードへの切り替えスイッチがあるが、スポーツモードとすることで乗り心地が硬くなってもなお、余計な衝撃を体に及ぼさないのは空気バネの威力だろう。
アウディA8の乗り心地が、同じくアルミ製車体を使うジャガーXJとどこか違うと感じさせるもう一つの理由は、4輪駆動でもあるからだろう。通常の走行状況では、前輪に40%、後輪に60%とエンジン出力を分けて伝達する。加速の際、後輪で押し出されるのではなく、車体全体が前へ向かって勢いよく踏み出していく感覚がある。アルミ製車体の軽さと、4輪駆動とによって、アウディA8の独特の乗り味は生み出されているのだと思う。
高級セダンとして存在感
室内は、高級車にふさわしく静粛性に優れる。それはロングボディーを生かした広い後席に座ったとき、よりいっそう実感される。注文装備のバング&オルフセンのオーディオシステムの音を堪能しつつ、運転者との会話も楽しむことができる静粛性である。後席においても、A8の軽快な走りが余計な揺れのない快適な乗り心地となって、体をほぐす。
ロングボディー車は、リアエグゼクティブシート機能もある。助手席側の前席をずっと前へ移動させて足元に十分な広さを確保したうえで、座席の前後位置や背もたれの角度を調節することで、航空機のビジネスクラスのような空間に身をゆだねることができる。目の前には、左右別々に液晶モニターが備え付けられ、DVDなどエンターテインメントを楽しむことができる。
試乗の場では、アウディ広報マンに運転を頼み、エグゼクティブリアシートの贅沢(ぜいたく)な気分も味わうことができた。
高級セダンというと、これまではメルセデス・ベンツやジャガーといった車種が主流であったが、新型アウディA8は、本気でそれらと競合し、存在感を示す意気込みであることを印象付けた。
(読売新聞)