2012/03/16

ポルシェ カイエンS ハイブリッド







ポルシェ初のハイブリッドカー

車体の長さが5メートル近く、幅が2メートル近い大柄なカイエンSハイブリッドだが、運転時にはそれほど大きく感じさせない運転しやすさがある

V6エンジンと電気モーター1個を組み合わせたハイブリッドシステムは、合わせて380馬力、最高速度は242km/hに達する。

淡いベージュ色の内装と木目の装飾が用いられた室内は、まさに高級車の趣がある

4ドア+ハッチバックのスタイルで、5人が乗車できる。燃費は国内基準では公表されておらず、EU基準で12.1km/Lと発表されている

荷室の床を持ち上げると、その下にハイブリッド用のニッケル水素バッテリーが収められている

ポルシェといえば五つの丸形メーターが並ぶダッシュボードが特徴。その左端に電気モーターの稼働状況を示すパワーメーターがある。

 ドイツのスポーツカーメーカーであるポルシェが、2002年に誕生させたSUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)がカイエンである。これに、ポルシェとして初のハイブリッドが追加された。それが、カイエンSハイブリッドだ。

 カイエンSハイブリッドのシステムは、排気量3000ccのV型6気筒スーパーチャージャー付きエンジンと、電気モーターが組み合わされ、8速オートマチックトランスミッションを備える。

 電気モーターは、減速するとき発電機に切り替わり、回生によって発電してバッテリーに充電を行う。また、減速しはじめるとエンジンは停止し、クルマが停車すればそのままアイドリングストップが働く。さらに高速道路を走行中でも、アクセルペダルを戻すと、エンジンも電気モーターも動力を発生しない「コースト」と呼ばれる状況になり、エネルギー消費を抑える機能も付く。

スポーツカーメーカーならではの静粛性

 運転をはじめて、まず実感したのは静粛性だ。ハイブリッドシステムの紹介部分で説明したように、頻繁にエンジンを停止するので、走行中の多くの時間で静かな状態が続く。速度が上がったり、加速を急いだりするとエンジンが始動するが、それでも、エンジンの回転は穏やかで、そのエンジン音も控えめな音量である。

 SUVとはいえポルシェブランドだと思うと、それなりにエンジン音が勇ましく聞こえてくるのではないかと想像するかもしれないが、カイエンSハイブリッドが伝えてくるのは高級車の趣だった。

 停車中にアイドリングストップを行うことで振動も騒音もないシンッと静かな状態から、アクセルを踏み込んで発進させてもなお、その静けさを保ったまま速度を上げていく。はじめは電気モーターのみで走り出すためだ。その様が、とても上品である。

 さらに速度を高めていくと8速オートマチックトランスミッションが変速していくのだが、これも変速の際のショックを伝えてこない。やがてエンジンが始動しても、先に記したようにそのエンジン音や振動は極めて小さい。

 走行中、電気モーター、エンジン、トランスミッションが様々に稼働しているのだが、メーターなどで確認しない限りその稼働の切り替わりがほとんどわからないほど滑らかに走り続けた。その様子に、さすが伝統のスポーツカーメーカーであると感嘆したのであった。

 なぜ、スポーツカーメーカーだと滑らかな走りが生み出せるのか? 理由は次の通りだ。

 時速200キロを超えるような超高速走行が可能なスポーツカーの場合、タイヤへ伝わる動力に切れ目があると、ドライバーの意図しない挙動変化が起き、運転を難しくさせる恐れがある。したがって、速度が速くなるほどタイヤへ伝える動力は滑らかであることが肝心なのだ。そういう走りを日常的な速度で体感すると、ショックのない上質な走行感覚として伝えられることになる。

 ハイブリッドカーという複雑な機能を持ちながら、余計な振動やショックを伝えてこないカイエンSハイブリッドの走行感覚は、まさにそうした究極の走りを追求し続けてきたポルシェらしい上質な乗り味と言えるのである。

運転を楽しむ気持ちを大切にしたクルマ

 ハイブリッドの仕上がりの良さの他に、スポーツカーとして走るときに欠かせない要素としてあらためて実感したのが視界の良さだった。

 現行のカイエンから、前席両サイドの窓に三角窓が設けられている。それはちょっとした改良なのだが、この三角窓があることによって、斜め前方の視界がより確実に確保されているのだ。

 今回の試乗は、市街地からちょっとした山道、そして自動車専用道路と様々な道路環境で走行したが、そのいずれの場面でも、斜め前方の視界に不安を覚えることがなかった。前がよく見えるということは、行く先を間違いなく見定めることができるわけで、そこへ向かって運転を集中していくことができる。見通しが悪ければ、対向車は来ないか、人は歩いていないか、何か物が道路に落ちていないかなど、不安が心をよぎって運転に没頭することはできない。

 カイエンはSUVだとはいえ、スポーツカーを運転するときのように、運転を楽しみたいと思うドライバーの気持ちを大切にしたクルマだということに気付かされた。SUVといえども、ポルシェに乗る意味がそこにある。

 また、環境を意識したハイブリッドカーであっても、クルマを不安定な挙動に陥れないというスポーツカーづくりの哲学が伝わる仕上がりなのであった。

 1102万円(税込み)という価格は、簡単に手の届く額ではないかもしれないが、その価値に見合う感動と、環境への適合性に満足させられるハイブリッドカーである。

(読売新聞)


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