2012/04/04

ランドローバー レンジローバーイヴォーク 試乗レポート








SUVなのにスタイリッシュ

2008年、デトロイトの北米オートショーにLRXコンセプトとして姿を現し、2010年のパリサロンに市販モデルがデビュー、ヨーロッパでは2011年に発売された後、いよいよ今年3月早々に日本でも発売開始、というのがプレミアムコンパクトSUV、レンジローバー・イヴォークのこれまでの略歴だが、では、こいつはいったい何者なのか?

 それを解く鍵のひとつは、ランドローバー社の低価格ゾーンに位置する製品でありながら、“レンジローバー”を名乗っていることにある。つまりそれは、このランドローバー社がその創立時から得意とするモデルレンジであるマルチテレインヴィークル、すなわち道を選ばずどこでも走れる自動車の形態を採ってはいるものの、いわゆるライフスタイル系商品としてのキャラクターが強いことを示している。

 そしてもうひとつの鍵が、そのスタイリングである。オールテレインヴィークルの現代風発展型といえるSUVのカテゴリーに属するクルマでありながら、強いウェッジシェイプを採用したフェンダーラインと、その上に載った極端に見えるほど上下に薄いグラスエリア、それに低いルーフを持つエッジーでシャープなエクステリア。これもまさに、イヴォークがライフスタイル系プロダクツである何よりの証拠だといっていい。

2つのボディと3つのデザインテーマ

日本で発売されるイヴォークは4モデル。まずボディが、5ドアのイヴォークと3ドアのイヴォーククーペの2種類あり、その前者にベーシックな「ピュア」と装備豊富な「プレステージ」の2モデル、後者に同じく「ピュア」と「ダイナミック」の2モデルがある。プライスはイヴォークが450万円と578万円、クーペが470万円および598万円と、ドア枚数の少ないクーペの方が20万円ずつ高価なところも、若干常識破りではある。

プラットフォームは、フリーランダー2に使われているLR-MSをベースにしながらも、独特のボディ形状とレンジローバーらしいオフロード性能を両立させるために、90%以上もの新設計パーツを採用して開発されている。そこにサブフレームを介して組み付けられるサスペンションは、前後ともコイルスプリングによるストラット式で、上級モデルにはマグネライド連続可変ダンパーによるアダプティブダイナミクスをオプション装着できる。

 エンジンは全モデルに共通の2リッター直4直噴ターボで、240psと340Nmを発生、6段ATと組み合わせられ、アクティブオンディマンドカップリングによるフルタイム4WDによって4輪を駆動する。さらに舗装路、オフロードや雪道、ガレ場や砂地を含むあらゆる道路状況に対応するためのテレインレスポンスや、急坂を下る際に自動的にスピードをコントロールするヒルディセントコントロールも、全モデルに標準装備されている。

 ならばこの、ユニークなスタイルのプレミアムコンパクトSUV、乗ってみるとどうなのか? その印象をザックリ表現すると、なかなかイケるクルマだった。

峠を攻める気にさせる

最初に乗ったのは黒いクーペのダイナミック仕様で、オプションの赤いオックスフォードレザー張りスポーツバケットシートも鮮やかなキャビンに収まる。フロアはそれなりに高く、しかもクーペは5ドアよりルーフが30mm低いが、それでもヘッドルームが特にきついということはなく、自然な運転姿勢が得られる。ただし、傾斜のきついAピラーが太く、しかも最近の傾向どおりドアミラーが大柄だから、左角の視界に閉塞感があるのが少々気になった。それと2ドアのクーペの場合、リアシートへの乗り降りがけっこうきつい。

といったことはあるにせよ、走り出してみるとイヴォーク、かなり気持ちいいクルマだった。アダプティブダイナミクスをオプション装備した脚は、20インチタイヤを履くにもかかわらず不快な突き上げを感じさせることなく、やや硬めだがフラットなライドを提供してくれる。一方、2リッター4気筒ターボと6段ATで1700kg台の車重を走らせるパフォーマンスにも不足はなく、深く踏み込むと意外なほど活発にスピードを上げていく。

 それに気を良くしてターンパイクに攻め込むと、コーナリングもシャキッとしていた。着座位置の高い感じは若干つきまとうが、その割りにロールが少ないのに加えて、ステアリング操作に対するクルマのレスポンスはクイックかつ正確で、SUVにありがちなモッサリした印象は皆無。マルチテレインヴィークルらしからぬスポーティさを感じる。

 そこで試しに、テレインレスポンスを「オンロード」モードから「ダイナミック」モードに切り替えてみたら、たしかに挙動は一段と締まったが、乗り心地が硬くなって不整路では跳ねる傾向が出た。だから僕としては、「オンロード」モードの方が自然にコーナリングが愉しめると思った。逆に、舗装路でも路面の荒れた場所では適度にソフトな「草/砂利/雪」モードを選ぶと乗り心地が快適になる。今回、オフロードを走るチャンスはなかったが、その分野に関して圧倒的な信頼をおけるのがランドローバーの製品のいいところだ。

もっとも旬なクルマ

続いて今度はシルバー系の5ドア、プレステージ仕様に乗り移る。同じくオックスフォードレザー張りのアイボリーのシートは座り心地がクーペのスポーツバケットよりソフトなのに加えて、走り出してみたら乗り心地も明らかにクーペのダイナミック仕様より柔らかい。広報に確認したら、クーペと5ドアにサスペンションセッティングの違いはないとのこと。そこで思い浮かんだのは、クーペはオプションのアダプティブダイナミクスを装備し、5ドアにはそれが備わっていないことだった。そこから推測するに、標準サスペンションの方がマグネライドより乗り心地がソフトであるらしい。

その影響でコーナーでの初期ロールはクーペより若干明確だが、コーナリングの正確さは変わらず、これも心安らかにワインディングを愉しめる。しかもこちらは19インチタイヤを履いているのに加えて、脚の動きが全般にソフトなため、テレインレスポンスの「ダイナミック」モードを選んでも乗り心地が硬すぎないレベルに保たれるのも好ましい。試乗車はパノラミックグラスルーフを装着していたが、ボディ剛性はこれも充分だった。

 5ドアのスタイリングはクーペに比べるとシャープさが若干失われた感じがする一方で、当然ながらリアシートへの乗り込みはぐっと楽になる。後席の空間自体は変わらないものの、前席形状の違いとルーフの高さによるものか、スペースにも若干余裕が感じられた。したがって、基本的に2シーターでOKと割り切れる状況にあればクーペを選んで間違いはないが、3人以上で乗る機会が多いと想定されるなら5ドアを選ぶ方が賢明だろう。

 このレンジローバー・イヴォーク、発売前から少なからぬ注目を浴び、日本車を含む様々なジャンルのクルマのユーザーから引き合いがあるのだという。こういうデザインオリエンテッドなクルマに積極的に乗ろうというユーザーが増えているのは、好ましい傾向だといえよう。ボディカラーは現状、フジ・ホワイトの人気が高いらしいが、モーリシャス・ブルーやフィレンツェ・レッドにフジ・ホワイトのルーフを組み合わせるといった、鮮やか系ツートーンのカラーリングも積極的にチョイスして欲しいクルマだと思った。

(carview)


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