『宮大工棟梁・西岡常一「口伝」の重み』
2007/02/03 未分類
2007年02月03日(土)
最近、TVや雑誌では「匠(たくみ)」という言葉が流行のようです。
宮大工棟梁・西岡常一の話は、ここまで極めれるのかと驚かされます。
まさに匠の極みではないでしょうか。
西岡常一は永らく法隆寺の棟梁を務め,80歳を過ぎてなお薬師寺の
復興工事に携わり,最後の宮大工と呼ばれた人である。
西岡家は先祖代々,法隆寺の建物の修理や解体に携わってきた。
常一はある夜,祖父から「家訓」が伝えられ,それを父と共に聞いた。
法隆寺に代々受け継がれてきた「口伝」である。
― 仏法知らずして堂塔伽藍を論ずべからず。
― 堂塔の建立には木を買わず山を買え。建立には1つの山の
木を使うこと。木は土質によって性質が異なるから,
同じ環境で育った木を使って組んでいく必要がある。
― 堂塔の木組みは木の癖組み。木は育った場所によって,
それぞれ癖を持っているから,それを見抜き,生かして組む。
― 木の癖組みは工人等の心組み。
― 工人等の心組みは匠長が工人等への思いやり。
― 諸々の技法は一日にして成らず,祖神達の徳恵なり。
― 木は生育の方位のままに使え。
木は山で育った同じ方位で組む必要がある。
木は方位によってねじれたり,反ったりするから,
例えば,右に反る木と左に反る木は力が相殺されるように
組み合わせて使う。
西岡は千年先を見通す口伝の重みを知り,法隆寺に教えられた。
法隆寺の金堂を修復し,法輪寺の三重塔を再建し,
薬師寺の復興を実現してきた。
彼にとって口伝は教科書のようで,祖父はその現実の指導者,
そして,彼は祖父の言葉と法隆寺に携わることで,
礼儀作法や取り組み方,古代建築の理論,技術,技法などを
体で学び,創造性や応用力を身につけていったのである。
彼は木や鉄について,「鉄材は木の命を縮める」と考える。
「木だけなら千年もつものを,鉄を使って八百年,五百年に
減ずることはない」という。それでも現代建築は鉄を使おうとし,
西岡はよく学者などと対立した。
木には鉄との相性もある。現代の「水っぽい鉄」ではいけないが,
古代の鉄で作ったクギなら,木に守られて千年もつのである。
木には陽おもてと陽うらがある。陽おもての木はかたいが,
「陽うらを南にして柱に据えたりすれば乾燥しやすく
風化の速度がはやくなる」と話す。
山で育ったように据えることで,「木の生命を延ばす」のである。
木が生きているもう一つの証左として,加重で変形していた垂木が
その加重を除くと,弾力性が保たれていたから,
2,3日で千三百年前の姿に戻った,とされる。
木の種類でも,マツやスギではなく,「緻密で,粘りがあり,
湿気に強く,虫害がなく,総じて耐久力」のあるヒノキなら,
千年以上もつというのである。
ヤリガンナという古代の工具がある。
このヤリガンナで切った面を雨ざらしにしても,水ははじかれる。
一方,現代の電気ガンナで切った面は水をしみこみ,
1週間もすればカビがはえてくるという。
このことも自然と,人間の心があってこその出来事であろう。
西岡常一は自然や心を大切にする。
「木を生かすには,自然を生かさねばならず,自然を生かすには,
自然の中で生きようとする人間の心がなくてはならない。」
「法隆寺を通じて,技法よりなにより,そうした心による建立,
つまりは『入魂』を教えられたからこそ,私は堂塔の建立ができた」
というのである。