浦上春琴の掛け軸 から、、、
最近、気に入ったコラムを紹介します。
ーーー 人と人との繋がりはそんなでありたい。
仲間たちの集いはこういうふうでありたい ---
浦上春琴の掛け軸
人が集う情景を描いた名画は世界に数多く残されている。
その中で、私は、最近、ここに掲げた作品に強く魅かれるようになった。
江戸時代後期、浦上玉堂、春琴という文人画家父子がいた。
特に父の玉堂は「近代日本の最大の天才」とたたえられる名手だった。
その父子が仲間の文人たちと集って寛いでいる姿を写したのがこの一幅。
描いたのは息子の春琴だ。
ここに集まるのは当代きっての教養人たちである。
彼らは、心の赴くところに従ってそれぞれの世界に没頭している。
そうでありながら、雰囲気は決してばらばらではない。
どこかで何かが繋がっている。
それが画面全体に心地良い調和をもたらしている。
人と人との繋がりはそんなでありたい。
仲間たちの集いはこういうふうでありたいとしみじみ思う。
そういう思いを親しい友と共有したとき、私は時々この軸を出してみる。
この軸の前で対面するのは、いつも賑やかに群れ歩いている仲間より、何年かに一度会うような友人がよい。
めったに会わないけれど、何か互いに気になっている、という友がよい。
この軸は、私がそのような友と語り合うのを何度か見てきた。
日本人同士にしか味わえないような時間がそこには流れていた。
しかし、面白いことに、そういう心に共感する人が、海外からのお客様の中にも増えているように思える。私たちが日本固有だと思っていることは、実は既に固有ではなくなり、世界に共通する精神になりつつあるのかもしれない。
そんな思いから、大原美術館では、今秋から江戸時代以前の日本美術の展示に力を注ぎたいと考えている。
倉敷の地で活発に動いてきた日本最古の私立の西洋美術館が、新しい方向性を打ち出したことに、特に海外からどのような反響が寄せられるか興味を持っている。
(日本経済新聞 大原美術館理事長 大原謙一郎)